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中部国際空港アクセス鉄道について

佐藤信之

 

記事:『鉄道ジャーナル』平成1112月号掲載

注:入稿後の修正については反映しておりません。また、図・表も省略しています。

 中部国際空港は、平成16年度の開港を目指して、現在手続きが進められている。民間活力導入の新しい手法であるPFIを適用する最初のケースとして、一時もてはやされたが,しかし、現実に事業を実施する中部国際空港株式会社は、従前どおりの官民共同出資による第3セクターそのものではないのかという疑問が提起された。それも仕方が無いことで,当のPFI促進法が成立が遅れていたので、新制度に準拠しようがなかったという事情もある。

 その中部国際空港は、関西国際空港と同じく海上空港となることから、本土と空港島を結ぶアクセス手段の整備が必要となるが、鉄道については、第3セクターを設立して新線建設を担当させる。関西国際空港の場合は、空港会社自体がアクセス路の整備を担当した。 

中部国際空港計画

 中部国際空港は、現在の自衛隊と共用する手狭な名古屋空港に代わる国際空港として、中部地方の自治体、財界が中心になって計画した。昭和6012月岐阜・愛知・三重の3県と名古屋市および地元経済界が、中部空港調査会を設立して調査を開始。平成元年3月これら自治体の首長懇談会で侯補地を伊勢湾東部海上(常滑沖)とすることで合意した。そして、平成25月中部空港調査会は、「中部新国際空港基本構想」を公表した。

 平成311月には、空港審議会による第6次空港整備五箇年計画の答申で,名古屋圏の国際空港の新設に関し,総合的な調査を進めることとされて、国政レベルで認知されることになるが、しかし、プロジェクトが現実味を持つにはいましばらくの時間が必要であった。

 さらに、平成81213日第7次空港整備五箇年計画の閣議決定で「中部圏における新たな拠点空港の構想について,定期航空路線の(名古屋空港との)一元化を前提に,関係者が連携して,総合的な調査検討を進め早期に結論を得た上で,その事業の推進を図る」との記述が見られ,プロジェクトが本格的に始動することになった。これは、平成69月に関西国際空港が開港したことで、空港整備特別会計に新規空港の建設を受け入れる余裕ができたのであろう。

 この答申を受けて、平成104月中部国際空港の設置及び管理に関する法律が施行となり、あわせて「中部国際空港の計画案」が公表された。そして、中部国際空港は、運輸大臣設置の第1種空港として、基本施設、付帯施設ともに100%、空港整備特別会計が負担することになる。平成105月には、事業主体として、中部国際空港株式会社が設立された。

 空港計画案では、滑走路は、第1期として3,500m1本での開港となるが、将来はこれを4,000mへ延長するとともに、滑走路1本で処理しきれなくなった段階で並行滑走路を1本増設するという。開港時の離着陸回数を約13万回と想定するが、ちなみに関西国際空港の平成9年の離着陸回数は約12万回である。

 空港整備の事業スキームは,アクセス交通を除く空港整備の総事業費を7,680億円と見積もり、それに対して、国、地方自治体、民間がそれぞれ出資と貸付で財源を負担するというもの。

 出資金は、国が410億円、地方自治体が102億円で、公共主体が合計512億円を負担する。その一方で、民間側も同額の512億円を出資して、出資比率は、国4、自治体1、民間5となる。また、借入金については、国から1,638億円、自治体から410億円の無利子融資を受けることになっており、残る4,608億円が、日本開発銀行融資や市中借入として調達される。

 ところで、愛知県企業庁は、空港整備に併せた空港近接部の地域開発構想を持つ。開港時は空港島に約120ha、対岸部に約130haを埋立てて、関西国際空港のりんくうタウンのように、臨空複合産業都市の整備を行うというもの。最終的には約480haを開発することになる。 

空港アクセス

 空港アクセスに関しては、平成93月基本的考え方として「アクセス整備方策案」が公表された。

 名古屋都心から約30kmの位置に設置することとなる新空港の機能を最大限に発揮させるために、道路アクセス、海上アクセスと鉄道アクセスについて、整備の方向性が示された.

 道路アクセスを整備するにあたって考慮されたのは、名古屋都心地域から空港まで、30分〜40分でアクセスすること。空港を中心として60km圏域内の主要都市から空港まで概ね1時問でアクセスすること。北陸地域、関西地域等についても、広域的観点から高速の道路アクセスを確保することの3点である。

 また、鉄道アクセスについては、関港時までに、名鉄常滑線から空港に至る連絡鉄道施設を整備するとともに、名鉄常滑線のスピードアップおよび輸送力の増強を図ること。そして、名古屋駅における乗継利便の向上を図るとした。また、将来の航空需要の動向等を勘案して、西名古屋港線を新空港まで延伸する鉄道の整備について、検討を進めるという内容であった。

 さらに、海上アクセスについては、新空港の旅客ターミナルに近接した位置に海上アクセス基地を整備して、四日市港、津松阪港、鳥羽港などを対象に、地元市町村や運航事業者等で組織する協議会を設置し、検討を進めることになるという。

 また、空港島と本土との連絡施設については、道路は往復6車線、鉄道は複線で検討するとし、道路・鉄道橋を別々に架ける単独橋方式とするのかそれとも道路・鉄道を上下に配した併用橋方式とするのか、あるいは道路・鉄道が横に併走する併設橋方式を採用するのかを比較検討することになった。

 そして、「併用橋方式や併設橋方式は、単独橋方式に比べて道路と鉄道を同じ位置で架橋することにより、船舶航行や潮流等の海域環境への影響が比較的少なくできる。また、道路・鉄道を一体的に建設することにより海上部における建設費低減の可能性があること、併設橋方式は、併用橋方式に比べて海上部の高さを低くすることが可能で、連絡橋への取付部前後における縦断線形に優れ、全体建設費低減の可能性があるということ」で、船舶航行や海域環境への影響、線形構造、取付部を含めた建設費等で併設橋方式か望ましいとされた。 

アクセス鉄道の概要

 平成93月「アクセス整備方策案」では、新空港の開港までに、名鉄常滑線を空港に引き入れる連絡鉄道を整備することを規定した。そこで、名鉄は常滑線のスピードアップと輸送力の増強を実施することになり、また、常滑線の常滑駅と空港間は、あらたに第3セクターを設けて施設を建設し、名鉄が運行を担当することになった。

名古屋鉄道常滑線

 空港アクセスを担当することになる名古屋鉄道は、平成2年には整備計画を固めて、平成6年から本格的工事に着手した。

 現在常滑線の最高速度が110km/hであるのを、名古屋本線とおなじ120km/hとするために、16ヶ所の曲線改良を実施(うち7ヶ所は実施済み)するとともに、枕木のコンクリート化、重軌条化、ロングレール化を進めて、新名古屋〜常滑間を現行の29分から25分に短縮する。また、空港アクセス列車の設定によって運行本数が大幅に増加する(現在、日中の1時間に特急1本、急行2本、普通2本を運行)のに対応して,現在、河和線と分かれる太田川駅から常滑駅の間に追い越し駅がないために特急、急行の増発がかなわないことから、新たに太田川駅を高架化するのに併せて線路を増設、また西ノ目駅を南側に移設して追い越し設備を新設する。さらに、各駅のホームを6両と8両編成にも対応するように延長する。

 これらの総工事は550億円となる見通しで、すべて自己資金で賄われるという.

 また、踏切対策として、すでに豊田本町駅、道徳駅、名和駅、尾張横須賀駅、朝倉駅が高架線となっているが、さらに大江〜名和間と新日鉄前〜尾張横須賀間を高架化して、それぞれ大同駅と柴田駅の2駅と太田川駅を高架駅とする。このうち、新日鉄前〜尾張横須賀間については、都市計画事業として行われる連続立体交差事業で、建設省の道路整備特別会計からの国庫補助の対象事業である。大江〜名和間と新たに高架駅に改築される常滑駅については国庫補助の対象にはならなかった。

 また運輸省は、平成5年5月から2ヵ年をかけて「都市鉄道調査」を実施するが,その中に「中部国際空港アクセス鉄道の乗り継ぎ利便性等の向上」が個別プロジェクトとして取り上げられた.常滑線からのアクセス列車と、地下鉄やJR、民鉄他社との連絡の便を図るというもので、具体的には、金山駅でのJR、地下鉄との乗り換え、新名古屋駅でのJR新幹線、在来線、近鉄、地下鉄との乗り換え施設の整備が実施されることになる。「都市鉄道調査」では、このプロジェクトに対する公的支援策が検討されるのであろう。

中部国際空港連絡鉄道

 一方、常滑駅から空港までの区間については、平成10818日第3回中部国際空港連絡鉄道施設整備協議会で、地元側の施設計画と事業スキーム案が提示され、平成11113日第4回中部国際空港連絡鉄道施設整備協議会の場で概要が公表された。

 それは、建設主体(第3種鉄道事業者)として第3セクターを設立して、第2種鉄道事業者となる名古屋鉄道常滑線と直通運転をするために同一規格の複線の鉄道を建設するというもの。路線区間は、名鉄常滑線常滑駅〜中部国際空港駅間約4.5kmで、途中前島駅を置くことになる。

 開業時には、1日40,400人を輸送し、空港の全体計画が完成する2025年には80,600人の需要が想定されるとした。(ただし、アクセス整備方策案では開業時5万人を見込んでいた.)それに対してアクセス列車は、最大8両編成の列車を、開業時には、ピーク7/時、オフピーク6/時を運行する。また、建設費についてニュータウン鉄道等整備事業費補助が適用されることになり、平成11年度に予算化された。

 一方、事業費については、総額を約708億円と見積もり、そのうち約116億円を出資金、約135億円を補助金、約327億円を借入金、残り約130億円を負担金によって賄う計画である.

 出資金は、公共側と民間側が半額ずつ約58億円を負担。補助金は、ニュータウン等整備事業補助を適用して,総工事費から間接費と開発者負担金を差し引き、さらに自己資金調達分として10%を控除した金額の36%が補助される。この補助金約135億円を、国と地方自治体が1/2ずつ負担することになる。そして、負担金は、空港島と対岸部の地域開発を担当する愛知県企業庁と空港会社から鉄道会社に支出される。

 その結果、出資金および補助金からなる無利子資金にかかわる地方自治体間の負担割合は、愛知県68.5%、岐阜県   4.3%、三重県3.0%、名古屋市21.5%、常滑市2.7%となるという。

 平成112月に第3セタクー準備委員会を設置。同年616日には創立総会が開催されて、翌17日、第3セクター「中部国際空港連絡鉄道」株式会社が設立された。

 発起人は、公共側が愛知県、名古屋市、岐阜県、三重県、常滑市の5者。民間側が名古屋鉄道、中部電力、東海銀行、東海旅客鉄道、トヨタ自動車など8者と日本開発銀行である。その陣容は、空港会社に対する出資者とほぼ共通している。

 設立時資本金は、49千万円で、発起人をはじめ44の団体、企業が出資する.

 平成5年度から中部国際空港に関する漁業影響調査を実施、その結果が平成98月に提出された。これに基づいて、知事は関連する漁業協同組合に対して漁業補償の金額を提示したが、常滑市内の三漁協に続いて、愛知県漁連、三重県漁連も823日に補償額について同意したことを受けて、平成11824日、空港会社と愛知県企業庁は愛知県庁に対して、公有水面の埋立て免許の申請を行った。愛知県庁は、関連漁連全体の同意を得た上で,運輸省と建設省に対して進達することになるが、一部に交渉のまとまっていない漁連があるため、難航も予想されるという(『朝日新聞』820日、24日、25日地方版)。

 空港連絡鉄道についても、連絡橋部分が漁業補償に関係するため,第3種鉄道事業免許の申請は、埋立ての認可を得た段階で行われることになる。

 現在のところ、平成11年度に鉄道事業免許の取得を済ませて、工事施行認可を申請。平成12年度には工事に着手して、愛知万博の開催に合わせて、平成17316日、空港の開港と同時に鉄道の営業を開始する計画である.


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