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シンガホールのMRT・LRT整備について

佐藤信之

 

記事:『鉄道ジャーナル』平成1110月号掲載

注:入稿後の修正については反映しておりません。また、図・表も省略しています。  

 鉄道整備の公的助成に関する連載の番外として東南アジアの主要都市を取り上げてきたが、今回はその最後としてシンガポールの場合を紹介する。

 小さな国土という地理的特徴を持つシンガポールは、際限無く道路を建設していく訳にはいかないことから、自家用車の道路通行に価格付けをして抑制して、一方で、大量交通機関を全国に張り巡らして、これに旅行需要を誘導しようとした。そして、このような政策が、独立以来、紆余曲折することなく、一貫した理念に基づいて実施されているのも注目される点である。

 なお、本文中MRTMass Rapid TransitLRTLight Rapid TransitLight Rail Transitではない)の略称である。 

都市計画と都市交通計画

 イギリスの植民地であったシンガポールは、1955年に自治領となり、1963年にはマレーシア連邦の一部として独立、さらに1965年8月連邦から離脱して完全独立を果たした。

 シンガポールの都市計画の原型は、1958年のMaster planであるとされ、国内をいくつかのゾーンに分けて、それぞれについて戦略的な土地利用計画を策定するというものであった。この考えを引き継いで、1967年にはConcept Planが策定され、1971年、1991年に改定され、現在まで、国土開発の基本概念を規定するマスタープランとして機能している。

 Concept planでは、地域的ゾーンニングをして、それぞれ工業ゾーン、金融・商業ゾーン、住居ゾーンとして特徴づけをした上で、これらのゾーンを結ぶ交通ネットワークの構築が意図された。そして、この場合の交通ネットワークとは、高速道路と大量高速鉄道の巨大なネットワークであった。

 一方で、1960年代、他の新興工業国と同様に、都市への人口集中や都市交通の混雑といった都市問題に悩んでいた。そこで、政府は、官庁横断的なRoad Transportation Action committee (RTAC)を設けて、都心部の交通混雑緩和のために自家用車の利用の制限を検討した。そして、政府は、19756Area Licensing schemeを導入した。都心部への平日7時半から9時半までの自家用車の乗り入れに対して料金を徴収するというものである。ただし、4人以上乗車する自動車は対象から除外された。

 この制度は、自家用車のドライバーに混雑する都心へ乗り入れることで生じる他人へ課することになる外部費用を、料金という形で実際の支出とすることで自家用車の利用度合いを真の費用に見合ったものに合理化させるという趣旨がある。しかし、実際問題としては、自家用車の利用を制限することで通勤者を公共交通へ誘導を図ることを目指した。そのため、制限地域の周辺に駐車場を設け、都心へ向けてシャトルバスが用意された。さらに周辺部に建設されたニュータウンから都心へ向けて、バス路線が整備された。 1974年には、在来のバス会社の輸送力だけでは不足することが判明したため、政府は、スクール・バスや民間のワーク・バスと月間契約を交わして、通勤輸送を補完する措置がとられた。

MRTの建設

 国土計画であるConcept planが策定された1967年、シンガボール政府と国連開発計画は、4年間にわたることになる国土・都市開発計画についての研究を開始した。その結果は、環境面からだけではなく、自家用車の無制限の成長に対して十分な道路を整備することは不可能であるということであった。すなわち、大量交通機関の整備が不可欠であるとした。

 そこで、1972年から80年の間、3段階から成るMass Transit Study (MTS)が実施された。第1段階は、バスのみで対応する場合などのMRTの代替案について、費用と便益を評価した。ここでの結論は、バスで補完する鉄道システムが望ましいというものであった。そして、この結論を受けて第2段階では、東西線と南北線のMRT2路線が勧告され、さらに第3段階で、駅の位置、予算、建設、運営の詳細が決定された。

 1980年、Provisional Mass Rapid Transit Authority (MRT準備局)が設立され、19825月政府によって建設にゴーサインが出されたことで、MRTプロジェクトは始動した。東西線と南北線の2路線を予算50億ドルで、1992年までに完成するというもの。1983年9月には、トンネル工事の発注を済ませた。

 198310月建設主体として、MRTC(MRT公社)が設立されたが、ステータスはStatutory boardという法的に設立された政府機関であった。しかし一方で独立採算を要求されているので、日本では公団に相当するのかもしれない。ただし、建設費用はすべて国からの補助金が充てられ、収入は完成後に運営会社から支払われるわずかばかりのライセンス料程度である。そういう点では、日本鉄道建設公団が機能的に近いといえるだろう。

 同月22Shan Roadで起工式を開催した。おりしも 1980年代は、世界的な不況で工事の入札が競争的となり、落札価格を下げて費用の節約が可能となった。それに加えて、近く香港のMTRの完成するという時期で、MRTCは香港から専門家を引き込むことができたのも幸運であった。198412MRTの完成を2年繰り上げて1990年とすることを発表した。

 MRTの工事は、順調に進捗していたが、1986315日日曜日、Hotel New World6階建てのビルが崩壊。50人が埋まるという大事故が発生した。MRT工事担当者も参加して救出作業が進められ17人の生存者が救い出されたが、MRT工事にまつわる唯一の汚点となった。

MRTCの初期整備路線

 MRTの当初の全体計画は、全線68kmでそのうち高架線が45km,地下区間が20km、そして地平路線が3kmという内訳である。都心部を中心にシンガポール島を逆T字形に結ぶ、東西線と南北線の2路線である。

 198310Yio Chu KangClementi間の建設工事に着手。南北線の郊外区間Yio Chu KangToa Payoh(1)6km(Bishan以北が高架,以南が地下)がまず1987117日に暫定開業した。同年1212日にはToa PayohOutram Park(1)間の地下路線が開業して都心部への乗り入れを果たす。さらに、Outram ParkからClementiまで(1A)1988312日に延長してシンガポール島西部のジュロン工業地帯に達した。都心部のCity HallRaffles Place間の1駅分は南北線と東西線の複々線(上下2層)となっているが、Raffles Placeの南北線と東西線の渡り線を使って、暫定的にYio Chu KangClementi間の直通運転を実施した。

 その後、東西線の西側は、1988115Lakesideまで(2B)路線を延長。南北線も同年1220 Yishunまで(2B)開業した。1989114 日には東西線の西側City HallTanah Merah(2A)と、南北線Raffles PlaceMarina Bay(2A)を開業し、あわせてCity HallRaffles Place間の複々線の運転をはじめた。

 さらに、19891216日東西線Tanah MerahPasir Ris(2A)1990310日東西線支線 Jurong EastChoa Chu Kang(2B)が開業。最後に、199076日にBoon Layまでが開業して、当初計画分のすべてを計画どおりのスケジュールと予算の範囲内で完成させた。

 開業にあたって、198786日建設主体であったMRTCとは別に、運営主体としてSingapore Mass Rapid Transit corporation (SMRT)が設立され、これに10年間の営業権が与えられた。

 SMRTの株式は、授権資本が250,000,001株、発行済み株式は、150,000,001株で、各1ドルである。そのうち1株はLTAがもつ特別株で、重要な案件に対してのみ投票権を有する。残り150,000,000,株は、Temasek Holdings Pte Ltdという株式会社形態の持ち株会社が持つので、一見民間出資の株式会社と思われがちであるが、このTemasek Holdings Pte Ltdは、国防省の出資する持ち株会社で、国の経営する4つの持ち株会社の1つである。シンガポールでは、このような持ち株会社を通じて、国は多くの企業を統制しており、これらの企業をGovernment-linked Companies(GLCs)と呼んでいる。

 なお、国防省が関わるのは、MRTの地下駅などを国民防衛施設の機能を持ち合わせて建設されていることに由来しているのであろう。

 また、事業の多角化を志向しており、1994年8月TIBS Holdings Ltd.と共同して高品質のバスサービスであるBus Plusの運行で合意。1998年度には、Sembawang corporation, WorldComとともにDirectLine コンソーシアムを組んで、地域定路線通信事業免許を入札したが、これは不首尾に終わった。

 MRTの輸送は、1987年当時1日10万人輸送していたのが、初期計画路線が完成した1990年には1日80万人にまで増加した。この段階で、MRTはすべて工業地帯や業務地区の40%を網羅しており、また全人口の半分がMRTの路線から1km圏内に生活しており、そして30%の人が駅から歩ける距離に居住していた。さらに、現在では1日の旅客数は100万人に達するまでになった。

MRTCの次期整備路線

 初期整備路線のすべてが完成した19907月、次期計画路線として、北東線(NEL)Outram ParkPunggol間,空港線TanahChangi国際空港間,ウッドランド線Choa Chu KangYishun間のフィージブルスタディの結果が発表された。しかし、営業中路線ほどの需要規模か見込めないことから、運営費補助が必要となると評価された。そのため、政府は一旦事業化を見送るが、公共交通の利用促進という政策目的を配慮して、MRTC199312月ウッドランド線Choa Chu KangYishun16kmの延長を発表した。この路線は1996210日に開業し、南北線と東西線の支線とあわせてWoodlandを大きく循環するループ線を形成することになった。

 また、MRTCは、1995年ウッドランド線に続いてPunggolWorld Trade Centre間の北東線20kmMRT計画を発表した。交通省(Ministry of Communi-cation) は、北東線は採算を取ることは難しいが、生活水準の向上、自家用車所有圧力の低下などの便益を配慮して、内閣に推薦することを決定した。今後、北東部の開発計画により、徐々に旅客が増加し、4年で採算がとれるであろうという見通しも示された。

 さらに、MRTCは、同年2つのピープルムーバー計画を発表した。Bulkit Panjang線とBuona Vista線の2線の計画である。Bulkit Panjang線は、MRTChoa Chu Kangを中心とする環状路線で、新開発のニュータウン内の路線。Buona Vista線は、大学・病院・研究施設が建設される研究学園都市とMRTBuona Vistaを結ぶ路線である。いずれも高架路線で、無人運転。1時間1方向20005000人を輸送することができる計画であった。

 Bukit Panjang peoplemoverは、国際入札の結果、シンガポールのKeppel corporation,ホンコンのGammon,ドイツのADtranzが落札した。幹線道路上の高架方式のレール式中量交通システムで、1999年の開業を予定する。一方、Buona Vistaはコストをカバーできないとして中止された。

LTAの設立と『白書』

 このように、シンガポールの交通政策は、道路や公共交通施設の整備から自動車の数量規制まで、一貫したポリシーのもとに強力に実施されてきた。そのために、19959月には、政府は陸上交通に関連する4つの政府組織Mass Rapid Transit Corporation (MRT公社) Registry of Vehicles(自動車登録所), Road and Transportation Division of Public Works Department(公共事業省の道路交通部), Land Transport Division of the Ministry of Communications(通信省の陸上交通部)を統合して、Land Transport Authority (LTA:陸上交通局) が組織された。

 LTAの役割は、母体となった政府機関から分かるように、MRTや道路の建設といった社会資本の形成から、公共交通機関の監督、道路管制、自動車の登録、道路の利用料金の徴収など、陸上交通のほぼすべてに権限を有する組織である。Ministry of CommunicationsのもとのStatutory boardで、MRTCの組織に政府の関連機関の機能を吸収させたようなイメージである。

 MRTの建設財源は、従来どおり全額国からの補助金が充当されるが、道路の建設については、社会資本として国が担当すべき事業であるのを委託を受けて実施しているものであるという意味で、補助金ではなく建設に対する負担金の受け入れという形をとっている。

 LTAは、1996年まず陸上交通政策の基本的考え方をまとめて”A World Class Land Transport System”と題する『白書』が公表された。

 World Class Transport Systemを構築するために、高密度路線にMRTを整備すること。MRTの培養路線にLRTを整備。さらにMRT-LRTネットワークを補完する形で、低密度路線にバスを続けるというもの。

 一方、自家用車については、Pan-island Expressway (PIE)Central Expressway (CTE)での混雑費用は年4500万ドルに達するとし、都心道路と主要放射路線の混雑の解消が重要であると指摘する。そして、このような地区での道路建設は、高架道路、複雑に入り組んだジャンクション、地下トンネルなど大きな投資が必要となるが、高コストは財政的だけではなく、文化的遺産である歴史的建造物の破壊という点をも意味するという。

 『白書』は、このような場合、Road Pricingが主要道路の混雑を解消するのに有効であるとする。これができるのは、シンガポールのようなコンパクトな都市の特権であるとも述べている。それによってドライバーは、移動の重要性と移動のコストとを勘案して自家用車を使うかどうか判断することができるようになると説明する。

 また、交通と土地利用計画の統合についても課題として掲げた。1991年に修正された、土地利用計画の「1971Concept plan」では、商業、経済活動を、MRT沿線の地域センターに分散させること。住宅地域に近接して雇用センターを開発して、人々の交通の必要を減少させること。雇用センターの多い西部で住宅を増やし、一方東部では雇用センターを開発することを新たに規定した。そしてこのConcept planの重要な構成要素は戦略的交通計画であるとして、2030年までに人口400万人の交通需要を満たす交通計画を策定することが必要であると指摘していた。

 『白書』はその具体例として、Housing Development board(HDB:住宅公団)Toa PayohMRT駅に近接するバスターミナルを再開発して、住宅付き商業施設を整備したこと。またMinistry of National Development (MND:国土開発省)も他のMRT駅周辺で再開発を計画していることを示している。このようなMRT駅周辺の複合的開発は、香港のMTRCの例を参考にしたもので、住宅施設や商業施設の容量を最大化することが目的ではなく、むしろ地域開発と通勤者の利益の統合と調和の結果であると説明する。

 さらに、『白書』は、MRTの整備費用についてのLTASMRTの間の費用分担についても言及している。

 新規の路線整備について、既存路線網の運賃収入を路線整備の財源に当てる場合、将来の旅客のために現在の旅客に負担させるということで不公平であり正当化できず、また事業者の損失を拡大する。その結果、事業者の負担が増えて、運賃水準は上昇し、サービス水準は低下することになってしまう。

 他方、既存路線の維持費用については、プロジェクトの財源を借入金で充当する場合、現世代の代わりに後の世代に負担させることになるので、望ましくない。そこで、現在は、国と利用者がそれぞれ分担している。すなわち、国はトンネル、高架、駅などのインフラの建設費用と、最初の営業用資産(列車、信号を含む)の費用を負担している。一方、利用者は運賃という形で、2回目の営業用資産の取り替えに十分な積立金を含む営業費用を負担することになっている。そのため、営業用資産の取替え時には事業者は大きな財政的負担を強いられる結果、運賃の引き上げが必要となる。

 南北線、東西線では、初期営業用資産額は16億ドルであるが、2017年までに2回目の営業用資産の取得が必要となるとすると、年5%のインフレ率で計算して69億ドルとなり、これを事業者が負担することになると、30セントの運賃引き上げが必要となるという。

 世代間での不公平を避けるには、営業費用は全取替え費用ではなく、初期営業資産の減価償却費をカバーするのにとどめるべきである。そして2回目の営業用資産の取得の際には、運賃収入と政府からの資金が組み合わせられるべきで、その場合、東西線と南北線の営業用資産の取替え費用のうち、事業者が負担するのは16億ドルで、政府は5%のインフレ率で53億ドル、2%のインフレ率で13億ドルと計算されるという。

LTAの建設路線

北東線(North-East Line

 1996116日、通信相Mr Mah Bow TanLTAに対して北東線の建設を認めた。都心のWorld Trade Centerからシンガポール島北東部のPunggolまでの約20kmの路線である。途中、Outram Parkで東西線と、Dhoby Ghautで南北線に接続する。総工事費を50億ドルと見込み、2002年の開業を予定する。

 沿線には、People’s ParkWorld Trade Centerの建設が進められているほか、Sengkang, Farrer Park, Kandang Kerbau, Dhoby Ghaut, Clarke Quay, Outram Parkの各駅には商業ビルが、Buangkok駅では住宅開発が組み合わされる計画である。

チャンギ空港線(Changi airport Line

 19961115BG Lee Hsien Loong副首相によって、空港線の建設が発表された。東西線をTanah Merahで分岐して、空港駅に至る約6kmの路線である。途中Expo駅の1駅が置かれ、Expo駅と空港駅の間の4.3kmの区間が地下路線となる。

 1998年のなかばに工事に着手して、2001年終わりは開業する予定である。総工費は8.5億ドル。

 また、2001年には東西線のBuona VistaClementi間に新駅が開業する。

Bukit Panjang Light Rapid Transit

 1996210Goh Chok Tong首相によりBukit Panjang LRTの建設認可が発表された。Bukit Panjang ニユータウンとMRTChoa Chu Kangとを結ぶLRTである。

 MRT駅とニュータウンの間とニュータウン内の環状線から成る8kmの路線で、走行路中央にモノレールの軌道桁のような案内軌道が設けられた中央案内式の新交通システムである。完全自動運転、無人駅の省コストの交通機関として期待されている。1999年最後の四半期の開業を予定。

 走行路は、199611月に工事に着手し、すでに19984月に完成している。また、車両は、全部で19両が投入され、そのうちの2両が19984SenjaFajar間のテスト区間に搬入された。

 開業後は、MRTと同じくピーク時3分間隔、その他6分間隔で運行する予定である。また、車両基地とBukit Panjang間にも15分間隔でシャトル便を運行する。

 1997年、政府は、SMRTに対して、Bukit Panjang LRT systemの運営者として指名したことから、1997712日完全子会社のSingapore LRT Pte Ltd(SLRT)を設立した。

Sengkang & Punggol Light Rapid Transit

 SengkangPunggolは、MRT北東線の終端駅と一つ手前の駅という関係にある。

 Sengkang LRTは、計画中のSengkangニュータウン内の通勤路線として、東西2つのループ線の11kmの路線が建設されることになっている。1998年なかばに工事を発注し、2002年末に完成する予定である。受注したのは、地元のSingapore Technologies Industrial corporationのほか日本の三菱重工と三菱商事である。日本の新交通システムと同じ、側方案内式が採用される。

 一方、Punggol LRTは、Punggolニュータウン内の東西2つのループと北線の3路線、全線19kmの路線である。Sengkangの契約者にはPunggol LRT建設の受注オプションが付けられており、両システムは一体的に建設され、経営されることになっている。2004年末の開業予定。

 Sengkang LRTの西ループ線に設けられる車両基地からの車両を回送するため、SengkangPunggolの両システムを結ぶ路線も建設される

 さらに自動運転による中量輸送システムとして、都心部に環状線を建設する計画がある。2000年に工事に着手して2004年に開業を予定。開業時は4両編成であるが、設計上は6両編成まで運行可能とする。1時間1方向2万人の輸送力を持つという。

Licence and Operating Agreement(LOA)の改定

 SMRTにとって1998年は記念すべき年であった。10年の営業権の期限切れは当初1997117日に設定されていた。一旦これを年度末まで延長した上で、1998年3月31LTASMRTは新Licence and Operating Agreement (LOT)を締結した。新LOTの営業権の期間は30年間である。

 旧LOAが終了したことで、SMRTは、LTAに対して、取得時と同じ状態にして返還するという条件のもと、営業期間にわたる初期営業用資産の資本減耗分に相当する4.8億ドルを支払うことになった。今後無利子で5年間の均等割で支払われる。

 一方、新LOAでは、SMRTは、既存の営業用資産を1998331日の簿価12.14億ドルで取得。これに対してLTA4.8億ドルを補助することから、差し引き7.34億ドルを無利子5年均等で支払う。

 また、旧LOAのもとでは資産取替準備金(ARR)が積み立てられていたが、1998331日現在6.791億ドルに達していた。新LOAではこの積み立てが必要ないため、全額取り崩されて損益勘定に振り替えられた。

注)1.本稿は亜細亜大学アジア研究所の研究プロジェクトで収集した資料を使用してまとめた。

2.記述中ドルとは、すべてシンガポール・ドルである。


モノレールと新交通システム グランプリ出版 2310円込

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