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神戸新交通(1)ポートアイランド線

佐藤信之

 

記事:『鉄道ジャーナル』平成117月号掲載

注:入稿後の修正については反映しておりません。また、図・表も省略しています。 

 今回は,新交通システムの先駈けとなった神戸新交通のポートアイランド線を取り上げる。大阪市交通局の南港ニュートラムと同時進行していたが,そちらが公営企業が経営主体となっていたのに対して,神戸の場合は新しく第三セクターが設立された。その後,同様に第三セクターによる新交通システムの整備が全国で進められることになるが,それらのプロジェクトに対するパイロット事業として広く注目されたケースである。

ポートアイランド計画

 神戸市は,昭和511021世紀に向けての神戸市のあり方を規定する「新・神戸市総合基本計画」(マスタープラン)を策定した。そこでは,神戸らしい魅力のある都市の発展を目指すことを謳いつつ,生活環境の保全のために人口規模は180万人を限界とし,また都市機能の維持,均衡ある発展を図るために,既成市街地に120万人,西神,北神地域に各30万人を割り振りするという計画であった。そして,このマスタープランの中で,既成市街地の再開発の1つとして,計画人口2万人のポートアイランドと,同じく3万人の六甲アイランドが盛り込まれた。

 ポートアイランドは,神戸港の中央部に位置する面積436haの人工島で,昭和41年埋め立てに着手して以来,六甲山系でのニュータウン開発で生じた残土を投入して,昭和55年に完成した。そこには,外国貿易貨物量の増大,コンテナ化に対応する近代的な港湾を建設すると同時に,新しい都市空間を創造するとして住宅と各種業務施設が組み合わされた複合都市が建設された。神戸の都心,三宮の至近距離に立地することもあって,夜間人口よりも昼間就業人口が大きい,業務施設の比重の高い東京の臨海副都心と性格の似通った都心型のニュータウンである。

 そして,このポートアイランドと三宮とを結ぶ交通機関として,新交通システムが導入されることになる。

新交通システムの選定

 昭和43年度,「ポートアイランド利用計画委員会」で,埋立地には港湾施設に止まらず未来指向の海上都市構想を整備するという構想が生まれ,その都市内交通手段として新交通システムの導入が検討された。そして,昭和45年度「ポートアイランド基本設計委員会」において,具体的に専用軌道方式の輸送機関を導入することが示されることになる。

 一方,国においても,運輸省と建設省は共同で「新交通システム開発調査委員会」を設置。ここで,大都市についてケーススタディとして神戸市のポートアイランドを取り上げた。昭和4612月から48年3月にかけて,都市交通への適応性,路線等の導入計画,経営分析等の概略検討が行われた。

 ところで,新交通システムのもともとの概念はアメリカで開発されたのであるが,その契機となったのは,都市内の交通需要には,従来の交通モードでは十分網羅することができない分野があるという問題意識がまずあった。すなわち,徒歩では遠いけれどバスを使うほどではない交通。鉄道ほどの需要がないが,しかしバスでは力不足である分野である。前者には,小人数で利用するタクシータイプの自動運転システムのPRT(パーソナル・ラピッド・トランジット)が,後者には小規模な軌道交通システムであるGRT(グループ・ラピッド・トランジット)が開発された。

 当初構想されたものはあくまでも小規模な輸送力の小さなものであったが,実際に事業化が検討される段になると,簡単なものであっても高架橋建設などにともなう建設費は莫大となり,採算性を勘案すると必然的に単位輸送力は増大していくことになった。

 昭和4912月から52年2月までかけて「神戸市新交通システム機種選考委員会」で機種の調査,検討が行われた。

 選考委員会では,川崎重工業のKCV,神戸製鋼所のKRT,三菱重工業のMAT,新潟鉄工所のNTS4機種について,問題点が少なく導入の可能性があるという結論となった。そこで,この報告書を受けて,神戸市は地元企業を育成する立場から,川崎重工業,神戸製鋼所,三菱重工業の共同開発に落ち着いた。これがKNT(神戸ニュー・トランジット)である。

 一方,大阪市が選択したのは新潟鉄工所と住友商事などが開発したNTSニュー・トランシステムであった。いずれも側方案内式のゴムタイヤによる軌道システムで,1両の定員はどちらも75人で,ほぼ同じような外観を持っている。

路線の概要

 ポートアイランド線は,三宮−ポートアイランド間の全線6.4kmの路線で,三宮−中公園間が複線,中公園から先の島内は単線のループ線である。全線高架構造で,旧市街地で急曲線があって最小曲線半径は30m,またポートピア大橋の取り付け部と阪神高速を乗り越える個所で50パーミルの急勾配がある。新交通システムの粘着性能と小回りが利くという特性を最大限発揮した線形となった。

 三宮からポートピア大橋の北側のたもとに設けられたポートターミナル駅までは既成市街地を通過するルートで,建設省の管轄である。そのため,軌道法に依拠することになった。また,島内は,神戸港に新しく造成された埋立地で港湾整備地区にあたることから,運輸省港湾局が管轄する。島内は基本的には運輸省の管轄であるので地方鉄道法によるべきであるが,しかし中公園−市民広場−南公園間のみ街路事業として軌道法に基づくという複雑さである。

 計画当初の需要見通しは,ポートアイランドの造成が完了するとされた昭和60年の時点で,終日6万8千人,ピーク時1時間1万人の需要を見込んだ。そして,その旅客を,6両編成の列車を最小2分30秒の運転間隔で運行して捌く計画であった。

建設費と公的助成

 新交通システムに対してインフラ補助が導入されたのは,昭和50年度のことである。まず,小牧市の桃花台新交通に適用された。前年度に予算化された都市モノレールに対するインフラ補助の制度を拡大したもので,軌道を特殊街路として,都市街路の補助施設として想定して,軌道部の工事を道路管理者の工事とした。

 神戸新交通のポートアイランド線は,昭和51年度,この制度の先駈けとして,大阪南港ポートタウン線と同時に採択されたが,その時の枠組みでは,総事業費の37.5%(制度は,国費の全体工事費に対する割合を2526%(標準25.5%)を超えないようにインフラ率を設定するという規定であった)を街路の工事分,すなわちインフラ部に対する工事費と想定して,その内の3分の2を国,3分の1を自治体が負担するというものであった。しかし,昭和53年度に,インフラ率を44.9%に引上げる改定があったことから,同年に工事に着手したポートアイランド線についても,この率が適用されることになった。

 なお,このインフラ率の44.9%という数字は,地下鉄建設補助の補助率に併せたものであったが,実際には,当時の地下鉄建設費補助は,営業開始後10か年の分割交付であったため,利子率で割り引いて現在価値に換算して計算し直すと補助率は20.4%となり,新交通システムに対するインフラ補助の方が割が良かった。

 さらに,昭和52年度には,運輸省も新交通システムを臨港交通施設として国庫補助を認めたことで,神戸新交通についても補助対象事業として採択された。制度は,建設省によるインフラ補助と全く同じである。

当初計画では,総事業費は318億円余りで,その内神戸市が街路整備事業として実施するインフラ部に充てられる工事費は,総工事費の46.6%に当たる148億円であった。それに対して,この段階では,国庫補助対象率は37.5%であったので,実際のインフラ部の工事費比率46.6%との差,9.1%は市の単独事業とされた。

 一方,神戸新交通の担当する170億円余りのインフラ外の整備費については,当初資金計画では,資本金を40億円とし,そのうち52.5%を神戸市が出資。残りの工事費には,神戸市からの転貸債と銀行からの借入を計画した。

 単年度黒字転換は7年目,累積赤字解消は13年目が見込まれた。

 この種のプロジェクトの常として,事業が進むにつれてさまざまな見込み違いが起こるもので,工事が中盤を過ぎた昭和54年6月に事業費の改定を実施した。

 それによると,神戸市の担当するインフラ部の工事費は148億円から203億円に膨らみ,インフラ外についても170億円から233億円に増加した。総工事費で45%余りの増加である。

 また,インフラ部工事費の比率は46.5%と変わらなかったが,一方で国の補助対象率が44.9%に引上げられたため,差し引き1.6%が市の単独事業となった。ただし,インフラ外部の工事費のうち,用地および補償費として5.3%を神戸市が負担したので,市の単独事業となる工事費は,総事業費の6.9%となった。

 この改定後の収支計画では,運賃を当初大人160円均一としてあと3年ごとに約20%ずつ値上げを実施。これで,単年度黒字が10年目,累積赤字解消が22年目に達成されるとした。

 このように,工事費が膨らんだ理由として,免許・特許申請時点で設計車両重量を14t/両と設定していたのを,将来の余裕を考慮して18t/両に変更したこと。複線部の全幅員を6,980mmで計画していたのを7,500mmに拡大したこと。設計基準を道路橋の基準によっていたのを運輸省,建設省の両省の基準を満たすように変更したこと。また車両重量と建築基準の見直しで,支柱の径を1500mmから1800mmに変更したこと。さらに,故障車両の一時待避のために中公園駅北側に待避線を設置。出入庫の便を図って中埠頭駅に側線を新設したことなどが挙げられている。

第三セクターの設立から開業まで

 建設省のインフラ補助の対象事業者として,公営あるいは公的出資率51%以上の第三セクターであることが求められていることから,神戸の場合には第三セクターを設立する方式が選択された。そこには,神戸市内をターミナルとしていた民鉄各社と神戸市など自治体が出資して設立された,第三セクター鉄道の先駆的存在である神戸高速鉄道の経験があったためという。神戸高速鉄道の経営が順調であったことも第三セクターに好意的な雰囲気を作っていた。

 神戸市は,昭和52年4月8日新交通システムの建設と経営主体(第三セクター)について市議会で議決。4月12日には,インフラ部の建設を担当させるために企画局の中に新交通建設部を新設した。

 そして,同年7月18日インフラ外部の建設を担当し,また完成後は運営主体となる,第三セクター神戸新交通が設立された。

 資本金は55億円の授権資本全額の払い込みを実施。出資の内訳は,神戸市52.5%,銀行21.7%,市内大手企業14.6%,海運港湾倉庫7.8%,その他3.4%のとおりである。

 なお,主な役員は次のとおり。

役員(昭和59年3月31日現在)

取締役会長 宮崎辰雄 神戸市長

取締役社長 佐野雄一郎 神戸市助役

取締役副社長 小川卓海

専務取締役 栗村正和

常務取締役 阿久津成一郎

取締役 石野信一 神戸商工会議所会頭

    奥村輝之 太陽神戸銀行取締役頭取

    鳥居幸雄 神戸市港湾局長

    森本禎二 森本倉庫株式会社取締役社長

 昭和52年6月17日地方鉄道事業免許と軌道事業特許申請が行われ,同年127日にそれぞれ免許,特許の交付を受けた。

 昭和53年5月26日起工式が執り行われて,ポートアイランド内の路線について工事に着手した。また,同年9月6日ポートピア大橋の工事を開始。さらに昭和54年5月21日三宮駅ほか市街地部分の工事に一斉に取り掛かることになる。ポートアイラント内は新しく造成された用地であるため,用地の取得は順調に進んだが,既存市街地については一部親道路が未整備な区間があり,その分,着工が遅れることになった。

 昭和55年には島内の区間から工事が完成し,5月27日にポートアイラント内で試運転を開始。同年8月27日からは全線で試運転が行われた。

 そして,昭和56年2月4日開業式を迎えることになる。

需要予測と実勢

 ポートアイランドは昭和55年に埋め立てが完成し,同年3月に公団住宅の入居が始まった。そして,新しい海上都市の完成を記念して,昭和56年3月20日から9月15日までの間ポートアイランド博覧会(ポートピア81)が開催された。

 開業まじかの新交通システムは,その目新しさから体験乗車組も多く,三宮を乗車する旅客の多くが島内を循環して三宮に戻るという現象がみられたという。ポートピア81の会期中は,当初の予想を大幅に上回る観客を集め,博覧会中の乗客数は約2,090万人,1日当たりにして116,000人を数えた。

 当初の需要予測では,昭和60年時点で6万8千人と見積もられたが,会期中はその見込みのほぼ倍の旅客を輸送した勘定である。しかし,博覧会が閉幕して以降は,1日の旅客数は3万人台まで減少。昭和60年でも4万1千人程度にとどまった。

経営状況

 旅客数は見込みを大きく下回り,昭和57年度には11億円余りの営業損失を計上。さらに昭和58年度も大幅な欠損が予想されるということで,581125日運輸大臣あて運賃改定の認可を申請した。大人の運賃を160円から190円に引上げるというものであったが,翌年121日にまず180円に引上げたのち,101日には190円に引上げるという,2段階での値上げとなった。(現在均一240円)

 また,運賃改定に併せて収支計画の見直しを行い,以後運賃を2年ごとに改定して収支のバランスを図り,昭和 63年度には単年度黒字となることを計画した。

 その後,神戸新交通は,昭和61年に営業収支の段階での黒字転換を果たした。しかし,平成22月の六甲アイラント線の開業後,2,3年度と一時的に再び営業損失を計上することになるが,その後は阪神・淡路大震災で被災して長期間運休を余儀なくされた平成6年度を除き,黒字が続いている。その点,建設費に対する借入金の元本分に対応する減価償却費分は十分回収できている事を意味しているが,一方で,経常損益については,一貫して赤字傾向が続いており,この事は借入金の金利負担が経営を圧迫しているということである。いずれにしても,他の新交通,都市モノレール各社に比べると良好な経営状態にあるといえるが,しかしそれでも平成8年度の期末の累積債務は186億円を超えるという深刻な状況にあることには違いが無い。


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