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第三セクター鉄軌道の現状と問題点

佐藤信之

 

記事:『鉄道ジャーナル』平成113月号掲載

注:入稿後の修正については反映しておりません。また、図・表も省略しています。 

 夏頃,北海道の苫東開発に携わる第三セクターの経営が破綻,新たに第三セクターを設立して経営を継承するというニュースが流れた。また,最近では,東京の臨海副都心で商業ビルを経営する第三セクターが,比較的経営の良い第三セクターに合併することになるという。鉄道事業においても,千葉急行電鉄が,経営難から京成電鉄に事業を引き継いだ上で,会社を清算する。

 このように暗い話題を提供している第三セクターであるが,その第三セクターという用語法は日本独特のもので,定義も厳格なものではない。自治体が出資する法人を指す場合がもっとも広い定義で,一般にはその内株式会社の形態を取るものというのが無難なところであろう。地方自治体や地方公営企業といった公共部門でもなく,純粋民間企業でもないことから,第一セクターでも第二セクターでもないということで第三セクターと呼ばれることになった。

 鉄軌道事業での第三セクターは,かつて旧国鉄の特定地方交通線を継承した事業主体としてクローズアップされたために,ごく限定した使われ方をしている。それ以前に国鉄と地方自治体が出資して設立した臨海鉄道や,自治体が民営鉄道の設立に参加する例も少なくない。当然このような場合も厳密には第三セクターである。また,鉄軌道事業の場合には,資本金のすべてを自治体が出資する株式会社も第三セクターと呼ぶことになるのであろう。なお,純粋に民間企業として設立され,のちに公共部門の出資を受けても,依然として民間側に経営の主体性がある場合には,第三セクターには含まれないと考える。ただし,これは実際に第三セクターと呼ばれている事業者についてイメージを述べたもので,厳密なものではない。 

鉄軌道事業における第三セクター

 現在,鉄軌道事業を経営する第三セクターには,国鉄の特定地方交通線を引き継いだもの,都市モノレールや新交通システムの経営主体として設立されたもののほか,地方幹線の高速化など大規模改良工事の実施主体など,多くのパターンが見られる。

 特定地方交通線を引き継いだ第三セクターは全国に31社存在し,そのうち阿武隈急行,三陸鉄道,秋田内陸縦貫鉄道,愛知環状鉄道,北近畿タンゴ鉄道,土佐くろしお鉄道の一部区間と野岩鉄道,安佐海岸鉄道,智頭急行については国鉄改革で建設を中断していた公団AB線を引き受けて開業させた新線である(愛知環状鉄道はCD線)。また,鹿島臨海鉄道のように新線(CD線)を既存の臨海鉄道が経営するというケースもある。臨海鉄道は,かつて国鉄と自治体が出資して設立した貨物鉄道であり,これもれっきとした第三セクターである。現在,全国に13社存在する。

 一方,都市交通の場面では,建設省のインフラ補助の対象事業として,都市モノレールの千葉都市モノレール,多摩都市モノレール,大阪高速鉄道,北九州高速鉄道が,また新交通システムの横浜新都市交通,東京臨海新交通(現ゆりかもめ),桃花台新交通,大阪港トランスポートシステム,神戸新交通,広島高速交通などが営業中である。その他,インフラ補助の対象外の埼玉新都市交通も,新交通システムを経営する第三セクターである。

 また,都市内の鉄道路線として,地下鉄を経営する神戸高速鉄道,関西高速鉄道。地下鉄直通路線の東葉高速鉄道,北神急行電鉄。ニュータウン路線の北総開発鉄道,大阪府都市開発の泉北高速鉄道。それから公団CD線を引きうけて開業した東京臨海高速鉄道などがある。その他,工事中のものが埼玉高速鉄道,横浜高速鉄道,東京都地下鉄建設,上飯田連絡線,名古屋臨海高速鉄道,大阪外環状鉄道の6社。また常磐新線を建設する首都圏新都市鉄道は全額公共出資の第三セクターであるが,将来は民間からの出資も受け入れる。これらの第三セクターの中で,東京都地下鉄建設は12号線の建設主体(第3種鉄道事業者)として路線を完成させ,最終的に東京都に譲渡されることになる。それに対して関西高速鉄道は同じくJR東西線の建設主体(第3種鉄道事業者)であるが,完成後も路線を所有してJR西日本にリースする。前者が都の下請け的存在であるのに対して,後者は上下分離の考えに基づくインフラ整備の一方式として位置づけが異なる。この点,既設の神戸高速鉄道や工事中の大阪外環状線も同様である。

 その他,成田空港高速鉄道はJR東日本と京成電鉄が出資するが,一部自治体も出資している。また,関西国際空港は空港整備主体自身がアクセス鉄道を建設した例で,国,自治体のほか民間も出資する第三セクター。両者とも,線路を保有して運行会社に貸し付ける第3種鉄道事業者である。 

第三セクター導入の政策的背景

 昭和40年戦後最大の好景気が訪れ、45年秋まで続いた。これが、いわゆる「いざなぎ景気」である。昭和39年の東京オリンピックに伴う大規模な公共事業が契機となり、大阪万国博覧会の年に終焉を迎えた。

 昭和45年千里丘陵で開催された大阪万博までの数年は、関西圏を中心にビックプロジェクトが続いた。また千里ニュータウンや泉北ニュータウンなど郊外に巨大なニュータウンが建設され、ベットタウンが形成されていった。

 このような時期に、神戸高速鉄道,北大阪急行電鉄,泉北高速鉄道といった第三セクター鉄道が登場することになる。また、第三セクターによる都市モノレール整備が立法化されたのもこの頃昭和47年である。

 高度経済成長に陰りがさしはじめた頃、田中角栄は『日本列島改造論』をひっさげて総理大臣に就任した(昭和47年)。全国に高速道路を建設し、また新幹線網を整備しようという壮大な改造計画であった。

 昭和45年に政府が発表した「新経済社会発展計画」の審議過程で提出された経済審議会社会資本研究会の報告書の中で、社会資本整備の要求が増大していることから、これに対する受益者負担の強化と民間資金の導入を図る必要を示していた。

 そのような頃、昭和4810月に第1次オイルショックが発生。昭和49年度には戦後初めてマイナス成長に転落する。そして、昭和50年度にはシャウプ勧告以来の均衡財政主義が破綻して、やはり戦後はじめて赤字国債を発行することになった。

 先進各国の経済は少なからずオイルショックの影響を受け、景気の低迷が続いたことから、昭和53年ボン・サミットで、この状況を打開するために、日本と西ドイツに機関車国の役割を担うことで合意した。両国は積極的に赤字財政を実施し、需要の拡大に努めることになる。その結果、日本の公債依存度は、昭和54年度には一般会計歳出の34.7%を公債発行で手当てするまでに上昇した。

 それに追い討ちを掛ける形で、昭和54年第2次オイルショックが発生したことで日本経済は沈滞し、税収が低下していった。昭和56度には、前年度に比べて税収が3.3%低下した。そのため、高い公債依存度と税の減収が重なって日本の財政を困難にした。そこで、政府は、昭和57年度予算ではゼロシーリング、昭和58年度にはさらにマイナスシーリングを設定して、歳出の伸びを圧縮した。

 昭和57年末に中曽根内閣が成立したが、翌年第二次臨時行政調査会(昭和5658年)を改めて臨時行政改革推進審議会を設置、国鉄などの公社解体を決めていった。そして同時に、社会資本整備への民間活力の導入が主張されるようになった。

 このような背景のもとで,昭和51年には都市モノレールの事業者として北九州高速鉄道が,また昭和56年に国鉄特定地方交通線の転換路線の経営主体として三陸鉄道が設立された。

*この項の一部は拙稿「アジアにおける都市交通整備の動向について」地域科学研究会刊行物所収の再録。 

第三セクター鉄軌道の経営

 現在,第三セクター鉄道・軌道は,地方路線,都市路線にかかわらず難しい経営状況にあるといわざるをえない。平成8年度末現在,累積欠損が自己資本を上回る債務超過となっているのは,信楽高原鉄道,千葉都市モノレール,横浜新都市交通,桃花台新交通,神戸新交通,大阪高速鉄道,北九州高速鉄道,およびニュータウン鉄道の北総開発鉄道と平成10年度末で清算される千葉急行電鉄である。また,会津鉄道は債務超過(平成8年度末現在)ではないものの,すでに10億円を超える累積欠損を持ち深刻な状況にあるといって良いであろう。

 しかし,多くの国鉄の特定地方交通線を引き継いだ第三セクターは,開業時すでに危機感を持ってコスト削減と経営補填を目的する基金を積み立てており,累積欠損の幅は数千万円程度にとどまっている。なかには,伊勢鉄道,愛知環状鉄道,甘木鉄道,松浦鉄道,くま川鉄道,平成筑豊鉄道のように累積利益を計上する事業者も見られる。難しい経営環境に直面しているものの,よく健闘しているということができる。

 それに対して,建設省のインフラ補助制度の対象となる都市モノレール,新交通システムの方は,全体をとおして経営状況は悪い。営業損益で黒字を出しているのは横浜新都市交通,東京臨海新交通,神戸新交通の3例にすぎない。インフラ補助制度で,資本費の大半の負担を回避されているものの,もともと1キロ100億円を超える建設費のうち,3040億円がインフラ外の建設費として会社の負担となり,この費用が開業まもない各社の経営内容を悪くしているのである。またこの内の相当部分が,支配株主からの借入金として,貸借対照表に計上されているとおりである。その上,営業収支段階で赤字となる事業者も多く,このようなケースでは,自治体が経営支援のための融資を行い,ときにはこれを基金として運用益で損失を補填する方法がとられている。

 一方,臨海鉄道は,設立して相当年月を経ており,国鉄末期に大幅な貨物の縮小で積極的に合理化が進められ,また同時に事業の多角化が進められたことで,大半の事業者が鉄道事業の営業収支で黒字となっており,これが赤字の事業者でも,当期損益では黒字を計上している。 

第三セクターの問題点

 官民共同出資による第三セクターの方式を採用するメリットとしてあげられるのは,1.議会の審議を要しないため,弾力的で機動的に事業運営が可能であること。2.民間資金を大量にそして迅速に導入することができること。3.民間の経営ノウハウを導入して,効率的な経営が可能であることなどが指摘されている。しかし,議会の審議を必要としないために,自治体が会社経営についての詳細な情報を持ち得ず,経営に対するチェックが不十分となる可能性がある。また,民間資金の導入によって,財政状況にかかわらず大きな金額を調達することができるため,不必要に投資規模を拡大していることが考えられる。さらに,民間ノウハウによる経営の効率化については,実際の第三セクターを眺めてみると,いずれも公共側が経営の権限を握っており,民間部門の経営センスを取り入れることで経営が効率化されるということにはなっていない。(実際には,民間側が主体的に経営する出資法人は第三セクターとよばれることが少ないであろう。)

 第三セクターは,自治体から独立した組織として,自治体による統制権限は限定されている。厳密性を期して専門家の説明を借りると,すなわち,地方自治法は,「自治体が25%以上を出資する第三セクターの運営に関して,監査委員による監査,自治体の長による財務調査など,議会への経営状況報告義務を定められているが,いずれも財務上のチェックに限定され,運営全般に及ぶものではない。」(太田正「第三セクターの破綻処理と見直し基準」(『公社・第三セクターの改革課題』自治体研究会,1997108頁)

 なお,出資比率50%を超える第三セクターに対しては,毎事業年度,政令で定めるその経営状況を説明する書類を議会に提出しなければならない(地方自治法第243条の三第二項)とされ,また「収入及び支出の実績若しくは見込みについて報告を徴し,予算の執行状況を実地について調査し,又はその結果に基づいて必要な措置を講ずべきことを求めることができる(地方自治法第221条第三項)。しかし,このように事業計画や予算計画について首長からの報告が規定されているが,議会に審議や議決の権限はない。(成瀬龍夫「新段階の公社・第三セクターと改革への論点(『公社・第三セクターの改革課題』自治体研究会,199722,48頁)また,自治体の情報公開制度も適用されない。

 自治体と第三セクターの関係は,株主と経営者の関係であると同時に,自治体は住民の意志を代表している議会に対して責任を有する。そのため,自治体は第三セクターにたいしては株主として利害関係を負託しているとともに,住民から利害関係の負託を受けているのである。株主と経営者の関係では,自治体は情報の報告を受け,株主総会で議決権を行使し,また役員を送り込んで直接人事面からコントロールすることができる。しかし,住民との関係においては,議会は第三セクターの経営に対するチェックを十分果たすことができる状況ではない。つまりプリンシパルとエージェントの関係で捉えると,エージェントである第三セクターはプリンシパルである住民の利益を実現するメカニズムを欠くのである。

*プリンシパル・エージェント理論については,今井・伊丹・小池『内部組織の経済学』東洋経済新報社,1982を参照

 ここで,住民はなにを期待しているのかを考えると,鉄軌道が新設されることで移動コストが減少し,また便利になることであろう。さらに,財政支出が削減されて税金負担が軽減されることも求められる。そうすると,なにも自治体がコントロールして,第三セクターが担当する必要は少しも無い。経営センスの卓越した民間企業家に経営を任せることで,事業は採算ベースに乗り,運賃が引き下げられ,さらに自治体の補助金や融資が減ることになる。自治体は財政に余裕ができればもっと有利なプロジェクトを興すこともできるし,減税を行うことも可能になる。

 プロジェクトに住民の利益を反映させる方策として,公共部門が契約や規則によってがんじがらめにして,公共の利益を実現させる方法があり,これが現状であるが,このプロジェクトを民間企業に任せて,ビジネスチャンスを提供すると同時に応分のリスクも分担させることで,監督することなく,企業はみずからのリスクを軽減するために企業経営に努力することになる。これが,近年話題になっているPFI−Private Finance Initiativeの考え方である。 

PFIとは

 PFIとは,公共事業の資金調達から建設,運営までを,民間企業が主体的に実施する,新しい社会資本整備の手法である。イギリスにおいて,199211月に導入され,以来交通,厚生,防衛,官庁用施設,情報,教育,都市開発などの広い分野に適用されている。たとえば,鉄道事業では,英仏海峡トンネル,ノーザンライン鉄道,道路,第2セバン橋,ヒースロー高速鉄道などに実績がある。199711までのPFI事業総額7,545百万ポンドのうち,その大半5,382百万ポンドが交通部門に対するものであった。

 イギリス大蔵省の分類するところでは,大きく分けて「独立採算型」「公共へのサービス提供型」「ジョイント・ベンチャー型」の3つがある。独立採算型とは,民間事業者が施設を建設,所有,運営するというもので,事業者が利用料金を徴収して建設費用を回収する。また公共へのサービス提供型は,民間事業者が施設を建設,所有,運営するという点で同じであるが,公共部門へのリースや公共部門から支払われる(公共部門が査定して定めた)シャドー料金によって費用が賄われるのが異なる。最後に,ジョイント・ベンチャー型は,文字どおり官民による共同事業であるが,日本の第三セクターとは違って,運営責任は民間側にあり,公共部門による負担は出資金ではなく,補助金や交付金の形をとり,民間企業の主体性を制限することはない。(石黒正康,小野尚『PFI日本導入で,何が,どう変わる』日刊工業新聞社, 1998

 ところで,イギリスでは,1990年に就任したメージャー首相は,景気の過熱を抑えるために均衡財政による財政の健全化を目指して財政支出の抑制を行った。それが91年,92年と続くマイナス経済成長をもたらし,税収の減少と社会保障関連費の負担で91年から93年にかけて財政赤字が拡大した。このような財政抑制策のなかで,公務員の削減と,公共部門の縮小を目指して,公共サービスの一部を民間企業に委託するアウトソーシングや多くの公営企業や行政サービスの民営化が進められた。そして最終的に民営化することが難しいとして公共部門に残されていた分野に対して,PFIという新しい民営活力の導入手法が案出されることになった。

 イギリスにおいて,PFIが導入されるにあたっては,国家財政を立て直すという大きな目的があったものの,基本にあったのは,サッチャー首相のもとでの「サプライサイド経済学」の思想であった。すなわち「小さな国家」の概念であった。国家の経済活動へのさまざまな介入が企業の経営意欲を減退させ,結果として経済活動を抑制しているという考えである。国家の規制を緩和し,あるいは民営化を進めることで,経済活動が活性化されると信じた。 

日本でのPFI導入議論の背景

 日本の社会資本整備にPFIの方式を導入しようという動機となったのは,かつて中曽根民活において公共部門の縮小を第三セタクーで補ったように,財政再建の方針のもとで圧縮される公共事業費を,新方式の導入で補完することが目的であったように思われる。

 平成8年1219日「財政健全化目標について」が閣議決定されたが,そこでは2005年までのできるだけ早期に国と地方の財政赤字の対GNP比を3%以下とすること,特例公債依存からの脱却,国の一般歳出の伸び率を名目経済成長率より低く抑え,また地方に対しても同様に歳出の伸び率の抑制を要請することが定められた。

 政府は平成9年度を財政構造改革元年と位置づけ,財政構造改革に法的根拠を与えるために,平成9年11月にはいわゆる「財政構造改革法」を制定した。先の閣議決定に対して財政再建目標が2003年に繰り上げられるなどの変更が見られ,また今世紀中の3年間を「集中改革機関」とし,この間主要な経費について具体的な量的縮減目標を定めることとなった。バブル崩壊以後の景気の低迷に対して積極的財政政策を講ずることが求められる時期であるにもかかわらず,公共事業費も例外扱いされることはなかった。

 ただし,その後財政構造改革法は,平成10年通常国会で改正され,財政再建目標は2005年に後退した。さらに年末の臨時国会では一時凍結が議決され,かわって大規模な公共投資を含む緊急経済対策が成立した。これで,もしかすると日本でのPFI導入の動きは減速するのかもしれない。 

建設省の「日本版PFIのガイドライン」

 平成8年末,政府の行政改革委員会において,行政の関与のあり方を見直す3つの原則が提唱された。その1番に示されたのが「民間でできるものは民間に委ねる」ということであり,また2.「国民本位の効率的な行政」,3.国民に対する「説明責任(アカウンタビリティ)」があげられた。すなわち,公共部門が担当してきた公共投資や行政サービスについても,民間部門で賄えるものについては民間に任せるという立場の表明である。

 これを受けて,平成9年建設省は「民間投資を誘導する新しい社会資本整備検討委員会」を設置。日本でのPFI導入へ向けて,検討を始めることになる。そして,平成10年5月19日に中間報告が「日本版PFIガイドライン」として公表された。

 この報告書では,まず日本版PFIの目的として,社会資本整備に対する民間参加と市場原理等の導入による,公共の財政支出の有効活用を図ることを掲げている。つまり,民間の参加の可能な分野への民間資金の導入によって,あまった公共支出を他の有用なプロジェクトに転用することが可能となることであり,また市場原理の導入による投資効率の上昇で,補助金などの公共支出の削減が計れることを意味しているのであろう。そして,限られた財政資金の範囲内で社会資本整備の一層の促進につながることが期待されるのである。

 PFI事業の手続きは,まず最初に民間企業による発意が求められる。つまり,国や自治体が策定した多くの社会資本に関する整備計画(たとえば,運政審による鉄道整備計画。ただし,本格的鉄道整備計画の策定を目指していたが,実現していない)が存在するが,民間企業がその一部のプロジェクトについてPFI事業として提案するのである。あるいは,民間からの発意が無い場合には国や自治体が民間の参画が適当でありまた可能とおもわれるプロジェクトについてPFI事業者を公募することも考えられるという。

 PFIの発意があると,プロジェクトの管理者である国や自治体は,事業の趣旨,内容,参加者の資格などを公告する。そしてこのプロジェクトへの参加を希望する民間事業者は,事業の概略提案書,事業の資金調達の方法を付けて参加の意向を届け出ることになる。ここで管理者は,応募のあった参加希望者について事前審査でまず第1段階の振り分けを行い,この審査を通過した者に対して募集要項に示された規定に即した事業提案書の提出を求める。この提案書で第2段階の振り分けが行われ,最終的に優先交渉権者が選ばれる。これで契約内容について合意されれば,PFIプロジェクトの事業者が決定することになる。

 このようにして選ばれた事業者は,管理者との間で,官民の役割と責任の分担,リスク分担,公的支援の程度についての協定を結び,事業者は自身で資金を調達して事業に着手することになる。場合によっては独立の事業会社を新たに設立することもある。

 このように,公共事業に対して民間部門の自由な発意と創意工夫が発揮されることが期待されるが,その前提として,公共部門には,民間がPFI事業を提案し,民間の主体的な経営判断によって事業を遂行することができるような環境の整備が求められる。たとえば,補助金,債務保証や税制などの財政支援のほか,公共側の社会資本整備計画との関連で必要になる調査や環境アセスメントのほか,用地の取得など公共側にノウハウの蓄積がある場合には公共側が行うことが適当であるとされる。なお,この場合,公共側による支援措置については,一般的な規定が適用されるのではなく,事業者との間で結ばれる協定の中で個別に決められることになる。また,この報告書は建設省に対するものであるが,国による支援措置ばかりでなく地方自治体に対してもPFI事業者への助成を求めている。

 さらに,この報告書では,事業破綻時の対応を規定した点が特徴で,事業会社の帰責事由による事業破綻の際には,市場価格で代替事業者に継承するとし,あるいはそれが不可能な場合には管理者が引き受けることになるという。 

おわりに

 民間活力の導入のパターンとして,1つは民間部門で経営することによって経営の効率性を向上できる部門の民営化と,公共部門の経営する事業で採算がとれない部門に,民間資金を導入して,財政負担を軽減しようという場合がある。

 国鉄をはじめとして3公社が民営化されたが,売却代金で国の財政資金に余裕ができ,また事業の効率性は向上した。もともと電話事業にしても幹線鉄道にしても民間部門で十分サービスを提供することができる部門であった。現在までのところ地方自治体が経営する公営企業で,むしろ民間部門で十分経営できるような事業の民間への転換は進まなかった。一方,旧国鉄の特定地方交通線の場合のように,公共部門の経営の下で破綻した事業について,第三セクターを設立して引き継いでいった。特定地方交通線は,不採算路線であり,民間企業が引き受けるような事業でなかったことから,自治体主導で事業者を設立して,地域の主要民間企業からの出資を仰いだ。

 PFIは,第三セクターとは違って,民間側に経営の実権を与える代わりに,リスクも分担させることになる。そういう点では,むしろリスクの大きい特定地方交通線のようなケースよりも,たとえば東京都交通局の地下鉄経営を民間企業が引き継ぐというような場合に有効であろう。新たに民間主体の地下鉄運営会社を設立して,東京都に対して線路使用料を支払うのも良いであろう。

 また,建設省の都市モノレールや新交通システムについても,公的に整備された施設を使用するということで公的にコントロールされた公営か第三セクターでなければ経営できない。現実には公共部門が支配する第三セクターには,当事者としての能力も権限も無く,経営者は実質的に自治体なのである。しかし,自治体というものの存在する目的は,事業を効率的に経営することではなく,都市の均等な開発や就業機会の提供といった行政サービスを提供することである。自治体という組織は,もともと事業の経営に対してその存在目的において矛盾しているのである。民間企業で十分採算ベースにのっとって経営できるような路線は,PFIの考え方を適用して,民間中心の運営に転換することが必要であろう。


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