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名古屋臨海高速鉄道

西名古屋港線について

佐藤信之

 

記事:『鉄道ジャーナル』平成112月号掲載

注:入稿後の修正については反映しておりません。また、図・表も省略しています。 

 名古屋臨海高速鉄道は,JR東海の貨物線,西名古屋港線の旅客化の事業主体として設立された第三セクターである。本稿では,この事業の概要と助成制度について紹介する。 

名古屋港周辺の交通網

 かつて西名古屋港には,尾頭橋・八熊通から築地口を経由する市電の51,52番系統と下之一色を経由する70番系統で行くことができた。下之一色線沿線では単線の市電が田畑の間の専用軌道を走るというのどかな景色も見られた。

 名古屋港一帯は,日本有数の軍需工場が建ち並ぶ工業地帯であったため,明治43年には熱田駅前と築地口間に市電が開業し,西名古屋港へも大正6年に築地口−稲永(元西稲永)間が営業を始めていた。下之一色経由のルートも大正14年に稲永に路線を伸ばした。

 戦後は,軍需工場の民需転換が進むとともに,高度経済成長のもとで名古屋港の港湾施設の整備が進められた。名古屋港は,中部地方の拠点港湾として昭和26年に東京港や大阪港などと並ぶ特定重要港湾に指定され,遠くは信州や北陸からの物資が扱われている。

 名古屋港への地下鉄計画は,昭和22年「名古屋復興都市計画高速鉄道路線」として今日の名城線ルートが登場した。当時すでに市役所裏から金山までの免許を取得しており,将来は名鉄瀬戸線,小牧線,名古屋本線との直通運転を行うという遠大な計画であった。

 昭和44年2月地下鉄名城線工事が佳境にはいったたことから,まず野立築地口線日々野−築地口−名古屋港間が廃止され,また昭和46年3月地下鉄名城線金山−名古屋港間が開業したことで,同年12月には築港線・築地線熱田駅前−築地口−西稲永間が廃止された。昭和44年2月に下之一色経由の尾頭橋−稲永間も廃止されていたので,これで名古屋港地区の市電は完全に消えることになる。名古屋の市電が全廃となるのは昭和49年3月のことである。

 一方,西名古屋港への地下鉄計画は,昭和11年に市会委員会が示した地下鉄計画案で,名古屋の都心から八田を通過して西名古屋港に達する路線が検討路線として示されたが,まだ具体的な計画ではなかった。

 昭和473月都市交通審議会14号答申では,すでに中村公園−藤が丘間を営業中の1号線東山線の延長路線として,中村公園−八田間が整備路線として盛り込まれるとともに,八田−汐止(西名古屋港)間が検討路線として示された。そして昭和5311月中村公園−高畑間3.0kmの工事に着手して,57年9月21日に開業した。高畑には,名古屋貨物ターミナルの隣接地に,66両収容可能な車両基地が新設された。 

新線計画の経緯

 昭和47年の都市交通審議会答申にある東山線の汐止延長は,結局実現しなかった。かわって登場したのが,本題の西名古屋港線の旅客化であった。

 平成4年1月,運輸政策審議会12号答申で,名古屋−金城ふ頭間の鉄道が整備路線として盛り込まれた。名古屋−西名古屋港間は貨物線を旅客化するもので,また答申には同じく整備路線として取り上げられた市交東部線との直通運転を検討することが示された。

 国の平成8年度予算で,貨物線旅客化に対して,従来の幹線鉄道等活性化補助制度の適用の拡大を実現した。その際,大阪外環状線と西名古屋港線の2線への適用が見込まれたが,西名古屋港線については,事業主体のあり方や財政事情から,翌年度予算で補助対象事業として採択されることになった。(『大阪外環状鉄道について』本誌’98.3で平成8年度に大阪外環状線と西名古屋港線が同時に事業採択されたとしたが,これは誤りで,大阪外環状線は平成8年度,西名古屋港線は平成9年度の新規事業採択である。)

 平成9年12月第三セクター「名古屋臨海高速鉄道」が設立され,同年1212日に第一種鉄道事業免許を取得した。

 役員(取締役は常勤役員のみ・平成101130日現在)

 代表取締役  竹内 正 名古屋市助役
 取締役副社長 河内弘明 愛知県副知事
 専務取締役  村木 務 元名古屋市監査事務局長
 常務取締役  船戸征司 名古屋市総務局
 取締役    美濃島卓克 元東海旅客鉄道
 取締役    蜂矢哲朗  日本開発銀行参事役 

新線の概要

 現在の西名古屋港線は,名古屋−西名古屋港間11km余りの貨物線である。名古屋駅の客貨分離で新設された笹島貨物駅への引込線を延長する形で,昭和25年6月に営業を開始した。

 その後昭和40年代,東海道本線全線にわたる輸送施設の改良計画の一環として,西名古屋港線の一部区間を転用することで,東海道貨物ルートの一部となる名古屋−大府間の南方貨物線新設を計画した。この計画では,大井埠頭の東京貨物ターミナル,鳥飼の大阪貨物ターミナルそして名古屋八田の名古屋貨物ターミナルがフレートライナーの拠点駅として建設されることになった。そして,名古屋貨物ターミナルは昭和42年着工となり,同時に貨物新線に転用される区間について複線対応での高架化が進められた。

 名古屋貨物ターミナルが開業するのは昭和5510月で,さらに昭和5810月には黄金−ターミナル間の高架化が完成した。折りしも国鉄改革議論が高まりを見せる中で,同年南方貨物線の工事凍結が決定。南方貨物線は完成することはなかった。名古屋貨物ターミナルについても,東側群線と複合施設が完成したものの,西側群線の予定された部分は空き地のまま放置された。

 昭和62年の国鉄解体では,西名古屋港線はJR東海に引き継がれ,JR貨物が第二種鉄道事業者の免許を取得して,線路を借用して貨物列車を運行している。

 今回の旅客化では,名古屋駅から西名古屋港駅の入り口までを複線・電化する。名古屋貨物ターミナルまでは南方貨物線の建設にあたって用意された複線用の高架橋(一部盛土,地平)が利用されるが,ターミナル以南については現状は単線の地平線であることから,新たに高架橋や築堤の新設工事が必要となる。また,同時に西名古屋港からさらに金城ふ頭まで路線を延長する計画である。

 全区間15km余りの路線であるが,この内名古屋−稲永間11kmが運輸省鉄道局の幹線鉄道等事業費補助区間で,稲永−金城ふ頭間4kmが同じく港湾局管轄の臨港鉄道の区間として,同時に2種類の国の助成制度が適用される異色のプロジェクトである。

 平成10年度に工事施行認可申請を行い,11年度に土木工事に着手する見通しであるという。そして5年の工期を要して,平成16年度中の開業を予定する。

 開業後は,電車6両編成11編成を用意して,朝ラッシュ時9分間隔,夕ラッシュ時10分間隔,その他15分間隔で運行する計画であるという。大阪外環状線は,JR西日本が第二種鉄道事業者として運行を担当するのに対して,西名古屋港線は,名古屋臨海高速鉄道が第一種鉄道事業者として運行する。また完成後もJR貨物の貨物列車が名古屋貨物ターミナルまで乗り入れる。

 沿線は,名古屋港の後背地でありまた,湾岸には大工場が建ち並ぶことから,下請けの町工場が多く立地していた。それが,近年名古屋の都心への至近距離という地の利もあって,マンションが増えており,住宅地としての開発も盛んである。とくに,稲永−野跡間には伊勢湾台風後に被災者を収容するために市営住宅が建設されたが,この高層住宅への建替えが進められている。

 また,終点の金城ふ頭地区は,名古屋港の中心的役割を担う重要な地区であるが,港湾の埠頭の深度が浅いために,大型コンテナ船が周辺に新設されたコンテナターミナルにシフトして,代わって大規模インベント施設「ポートメッセなごや」(名古屋市国際展示場)が建設され,また平成10年には大型商業施設の進出も決定している。

 さらに,名古屋貨物ターミナルの周辺地域の再開発事業が進められている。ウエスト・サイド・タウン名古屋と称するプロジェクトで,国鉄清算事業団の所有する名古屋貨物ターミナルの建設用に確保されていた用地8haでの住宅開発のほか,周辺部で公営住宅の建替えを行い,合計約1100戸の住宅を供給する計画である。 

建設費と公的助成

 西名古屋港線の全体事業費は1,210億円余りで,その内名古屋−稲永間の活性化補助区間の工事費が約865億円,臨港鉄道区間の稲永−金城ふ頭間は約345億円である。活性化補助区間については,鉄道事業者が施工するが,臨港鉄道区間は,インフラ部を港湾管理者が施工し,鉄道事業者はインフラ外を担当することになる。この区間に対するそれぞれの工事費は鉄道事業者100億円に対して港湾管理者は245億円である。

 幹線鉄道等活性化補助制度は,大阪外環状線と同じく,国と自治体が対象工事費の12.96%ずつを補助するというもの。この場合の補助対象工事費は,総建設費から総係費,建設利息と消費税を差し引いた金額であるので,総事業費に対しては9.4%ということになる。なお,地下鉄建設費補助の対象工事費の計算式おおむね20%という補助率になるのであろう。(地下鉄建設補助制度については改めて紹介する予定。)

 また,その他に自治体からの転貸債による貸付金と日本開発銀行からの公共事業に対する低利融資が充当される。

  活性化補助区間財源

   出資金    173億円 (20.0%)
   補助金 国  82   ( 9.5)
       地方 82   ( 9.5)
   地方貸付金  370   ( 43.0)
   開発銀行融資 158   ( 18.0)
     計    865   (100.0)

 一方,臨港鉄道区間については,港湾整備特別会計からの臨港整備事業費補助の枠組みが適用される。すでに大阪港トランスポートシステムの地下鉄路線の建設に先例がある。

 建設省の道路整備特別会計による新交通システムに対するインフラ補助に似ていて,インフラ部とインフラ外部の事業主体が分かれ,インフラ部については港湾施設の整備に対する国庫負担の規定にしたがって5/10が補助されることになる。残りは港湾管理者である名古屋港管理組合(県,市設立の一部事務組合)市が負担する。ただし,新交通システムのような一律のインフラ率の掛け率は適用されない。

 インフラ外部については,鉄道事業者の単独事業として,出資金20%の他は全額借入金で賄われる。

 ちなみに,インフラ部は高架橋部分が該当し,道床,架線柱,架線,信号設備がインフラ外部となる。

  港湾鉄道区間インフラ外部の財源

   出資金    20億円(20.0%)
   地方借入金  37   (37.0)
   開発銀行融資 43   (43.0)
     計    100   (100)

 最後に,第三セクターへの出資者の出資比率を挙げると,公共部門として名古屋市57%,愛知県11%,名古屋港管理組合2%で,あわせて70%である。民間ではJR東海の10%,日本開発銀行5.2%の他は,沿線に立地する民間企業や中部電力,東海銀行などの地域の有力企業である。なお,JR貨物も0.5%を出資する。 

*なお,取材,完成原稿につきまして名古屋臨海高速鉄道株式会社石原俊造技術部計画課長にお世話になりました。紙面を借りてお礼申し上げます。


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