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横浜市交通局地下鉄4号線について

佐藤信之

 

記事:『鉄道ジャーナル』平成108月号掲載

注:入稿後の修正については反映しておりません。また、図・表も省略しています。 

 横浜市営地下鉄4号線は,横浜市北部に広がる港北ニュータウンの2番目のアクセス鉄道として計画された。平成9年度に事業に着手し,平成15年の開業を目指すことになる。 

港北ニュータウン

 港北ニュータウンの事業地域は,南北を東急の田園都市線と東横線,東西を南武線と横浜線に囲まれる広大な地域である。域内には,第3京浜国道が通るもののインターチェンジは設けられておらず,ながいこと交通の不便な地域であった.そのため,比較的まとまった形で自然が残されるという首都圏では貴重な地域となっていた.

 横浜市は,昭和40年,乱開発を防ぎ,この地域の自然を守るため,農業との両立を図るとともに「市民参加のまちづくり」を特徴とする,港北ニュータウンを計画した.全体の面積は2,530haで,住宅・都市整備公団の開発地区が第1地区547ha,第2地区769ha,あわせて1,316ha。さらに域内の農家の移転先として,農業専用地区230ha,その他地区917haから成る.昭和43年に事業に着手して,昭和55年工事概成,60年完成を目標としたが,55年8月に見直しがあり,58年度入居開始,62年度概成に改定された.ニュータウンの造成事業は,平成8年9月には換地処分の公告があり,事業はひとまず一段落という状況である。(拙稿「多摩田園都市と周辺交通網」『鉄道ピクトリアル』600号,東京急行電鉄特集,199412月臨時増刊参照) 

4号線の原計画

 4号線の原計画は,昭和41年の都市交通審議会9号答申「横浜及びその周辺における旅客輸送力の整備増強に関する基本計画について」にさかのぼる。当時計画の緒についたばかりの港北ニュータウンへのアクセス路線として,(3)本牧〜関内〜桜木町〜横浜〜新横浜〜勝田間と,(4)鶴見〜末吉橋〜勝田〜元石川の2本の地下鉄路線が設定された。勝田がニュータウンの中央に位置し,元石川は現在のあざみ野にあたるので,ほぼ現在の3号線,4号線の路線に対応する。

 また,港北ニュータウンのアクセス鉄道として,昭和47年都市交通審議会15号答申「東京及びその周辺における高速鉄道を中心とする交通網の整備増強に関する基本計画について」でも,都営6号線を東急池上線と接続する計画を取りやめにして,三田から港北ニュータウン方面の路線延長を検討することとされた。港北ニュータウン内には6号線の路線用地が確保され,現在でも地割にその跡を確認できるという。 

4号線計画の概要

 昭和5612月,横浜市新総合計画「よこはま21世紀プラン」では,鶴見〜港北ニュータウン〜中山間の鉄道整備が盛り込まれることになるが,これは,41年9号答申中の整備路線(4)として認定されたのを受けたものである。一部経路が変更され,港北ニュータウンから元石川へ向かう計画を中山に変わった。また,昭和60年7月の運輸政策審議会7号答申でも,横浜4号線として日吉〜港北ニュータウン間が整備すべき路線として,また港北ニュータウンから横浜線方面が検討すべき路線として認知されることになった。

 当時,横浜市は,港北ニュータウンの交通アクセスとして3号線の計画を進めていた。横浜市は,昭和48年7月に元石川(あざみ野)〜横浜間の路線新設を申請,54年1月に新横浜〜横浜間のみ免許が交付されたが,ニュータウン計画の遅れと見直しで,あざみ野〜新横浜間については昭和61年2月まで遅れることになる。さらに昭和62年に工事に着手するが,新横浜とニュータウンの間の既成市街地での用地買収が難航して,あざみ野〜新横浜間の開業は平成5年3月となった。当然,4号線計画も,3号線の完成まで進展を見ることはなかった。

 そして,平成5年12月に横浜市の新総合計画として策定された「ゆめはま2010プラン」に,横浜環状鉄道の構想が示された。4号線日吉〜中山間は,この環状鉄道の一部を構成する路線として位置づけれることになった。将来は,鶴見〜日吉〜中山〜二俣川〜東戸塚〜上大岡〜根岸〜元町を結ぶ構想である。元町〜横浜〜鶴見の間を結べば環状路線が完成することになるが,途中横浜〜元町間が横浜高速鉄道として軌間1,067mmの架空電車線方式で建設中なので,直通することはできないのが残念なところ。

 横浜市は,平成9年3月中に路線の申請を行い,5月23日に免許が交付された。平成10年度から11年度にかけて都市計画決定や環境アセスなどの手続きを進め,平成11年度末かあるいは遅くとも12年度には工事に着手したいという。平成15年度の開業を目指すことになる。 

路線と駅

 4号線の計画路線は,東京急行電鉄の日吉駅を起点にして,港北ニュータウンから横浜線中山に至る建設キロ13.1kmの複線鉄道である。日吉で接続する東横線は,目蒲線を経由して営団南北線と都営三田線が乗り入れることから,これを直通する案も検討されたが,東急側が東横線の輸送力不足を理由に難色を示したことから立ち消えになったという。営団南北線の列車を直通する場合,埼玉高速鉄道,営団,東急目蒲線,東横線の3社4路線が絡むことになることから,運行管理上煩雑となると考えたのかもしれない。直通がなくなったことで,本格地下鉄の方式ではなく,輸送力の小さいリニア式の小断面地下鉄にレベルダウンしたことにより,建設費の圧縮も可能となった。

 このリニア地下鉄は,都営12号線と大阪市長堀鶴見緑地線で運行中のほか,神戸市海岸線,福岡市3号線で導入を予定している。線路間に設置されたリアクションプレートと車上のコイルとが作用し合って推進力を与える。床面高さが低いため,トンネル断面が小さくでき,また従来の鉄道では30‰の勾配が限界であるのに対して,リニア方式では60‰の急勾配をのぼることができるため,急勾配,急曲線の組み合わされた柔軟な路線設計が可能となるという特性がある。

 軌間は1,435mmで,直流1,500V,架空電車線方式である。使用される電車は,長さ15.5m,幅2.5mの小型車両を使用し,6両編成の運行を計画している。

 途中,日吉駅側から,日吉本町,高田町,東山田,北山田,センター北,センター南,葛が谷,川和町,中山の10駅を設置する。この内,東山田と川和町の両駅は,現在市街化調整区域にあるため,調整区域の指定を解除した上で,街づくりと一体的に整備すべきとして,現在のところ設置予定ということになっている。また,センター北,センター南は,すでに3号線の駅として営業を行っている。このセンター北〜センター南間と川和駅周辺が高架線である他は,すべて地下路線である。車両基地は川和町に建設される。 

4号線の財源

 日吉〜中山間のうち,日吉〜東山田間と川和町〜中山間が自治省の地下鉄緊急整備事業区間で,そのうち日吉〜高田町間が地下鉄建設費補助となる。また残りの東山田〜川和町間がニュータウン新線区間で,わずか13.1kmの区間に3つの助成制度が採用されることになった。

 昭和60年運政審6号答申では,港北ニュータウン〜中山間が整備路線ではなく,検討路線とされていたことから,補助金の交付に否定的であったが,運輸省に対する横浜市の強い要請により国庫補助が実現したという。

 地下鉄緊急整備事業は,すでに9711月号で紹介したとおり,工事区間を半分に分けて,それぞれ国庫補助による区間と地方単独区間とするものである。国庫補助区間に対しては,総事業費の20%を自治体の一般会計から出資,残る額の70%を地下鉄建設費補助金として国と自治体が折半で補助される。また地方単独区間には,同じく20%が自治体の一般会計から出資,残りを自己資金として企業債を発行することになるが,その3分の2を一般会計が元利償還を行うこととし,さらにその75%が地方交付税の計算で配慮されることになる。地方交付税は,基準財政収入が基準財政需要に満たない分を一般交付税として国から地方に支出されることになるが,公共事業の規模が他の自治体に比べて大きい横浜市の場合には,地下鉄建設の交付税措置対象額の100%が交付されるとは限らないという。

 ニュータウン新線補助は,開発者負担に特徴がある。鉄道用地はニュータウン造成者から素地価格で提供を受け,また施工基面以下の工事費の2分の1を開発者が負担するというもの。公営鉄道の場合には,これに国庫補助の制度が加わり,対象工事費の36%が地方自治体と折半で補助される。4号線の場合には,地下路線区間で,民有地の地下となる部分には,換地の際に無償で地上権を設定,地上区間には造成段階で土地を確保して,素地価格で取得することになっている。

  工事費内訳

   地下鉄補助区間     720億円

   ニュータウン補助区間   1,420

   地方単独区間       860

   合    計    約3,000

 その他,横浜市は,横浜市交通基盤整備基金を設置しているが,これは,MM21線の建設に当たって,MM21地区の開発者に対してニュータウン新線の開発者負担と同程度の支出を求めるために設けられた。4号線の建設に対しても,ニュータウン新線補助や地下鉄建設費補助区間からはずれる地方単独区間の自己資金に充当するために,基金からの拠出が予定されている。

 基金は,沿線開発者から負担金を受け入れるとともに,市に対して同額の一般会計からの繰入れを求めており,補助制度のない地方単独区間への実質的補助金となる。ただし,現在のところ基金の残高がゼロであることから,開発者への負担金の要請が必要となるが,沿線の開発計画が未定なため,開発者自体だれになるのか決まっていないという状況である。いずれにしても,今後着工後の問題となるであろう。 

4号線の展望

 港北ニュータウンは,計画の遅れから人口の張り付きが低調であった時期があったが,現在は年に8,000人ずつ増加しており,従業人口も着実に増加を見ているという。熟成期とされる平成27年には22万人規模のニュータウンに成長する計画である。

 平成15年の4号線の開業時には,1日平均利用人員16.1万人,輸送密度8.3万人の需要を予想する。それに対して総定員584人の6両編成の列車を1日当たり平日163本,休日132本運行する計画である。朝ラッシュ時には1時間当たり18本3分20秒間隔,昼間同8本7分30秒間隔,夕ラッシュ時同12本5分間隔で運転。最混雑時輸送人員1.5万人に対して輸送力1万人と,運輸政策審議会答申で混雑の目標値とする150%をクリアする見通しである。

 また,日吉まで直通する予定の営団南北線も,横浜市「ゆめはま2010プラン」で示された大倉山から新横浜を経由して二俣川に至る神奈川東部方面線への直通も予想される。横浜市中央部での鉄道整備の構想が目白押しである。

*本稿をまとめるに当たって,横浜市交通局高速鉄道建設部環状線計画担当小嶋一夫課長,後藤力課長補佐(兼環状線計画担当係長)のご協力を得た。末筆ながら,お礼を申上げたい。


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