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 大阪港再開発計画と新交通システム
                                         佐藤信之
『鉄道ジャーナル』31巻1号、1997年1月掲載

  本誌前号で新交通システムの現状について紹介したが、
大阪南港地区で建設中の「大阪港トランスポートシステ
ム」の路線について一部補足したい。すでに工事は終盤
を迎え、あと1年もすれば大阪港から地下鉄中央線の電
車が海を渡って海浜緑地まで、いっぽうニュートラムは
中ふ頭から海浜緑地まで延長されて、両線が接続するこ
とになる。
  ところで、大阪港の大規模再開発は、昭和50年代に南
港地区の港湾・物流施設の整備と人口4万人規模のポー
トタウンの造成が進められた。引き続き大阪市は昭和63
年「テクノポート」計画を策定して、ポートタウンの北
に隣接するコスモスクエア、北港沖の埋め立て地・舞洲
(まいしま)、夢洲(ゆめしま)あわせて775haの開発
が進められているところである。コスモスクエアは、住
宅地を中心とするポートタウンとは異なり、大阪ワール
ドトレードセンター(WTC)・アジア太平洋トレード
センター(ATC)などを中心とする業務地区である。
また平成8年5月には国際フェリーターミナルが開設さ
れて、現在中国の上海との間に定期フェリー航路が結ん
でいる。
  ポートタウンのある南港地区は、大阪港から堺市との
境を流れる大和川の間の水面を埋め立てて造成した大規
模な港湾計画区域である。事業に着手したのは昭和33年
7月で、最初に旧市街に隣接する南港東1〜4丁目、南
港南1〜3丁目が完成し、続いてポートタウンの造成が
始まり、44年8月に両地区を結ぶ南港大橋が開通する。
さらに開発は南埠頭地区に移って昭和51年にかもめ大橋
が開通する。
  このポートタウンの造成では、埠頭や流通基地などの
港湾施設にとどまらず、この地に住都公団や大阪市の大
規模団地や大学などを建設する新都市の構築を内容とし
ていた。旧市街の再開発は用地の取得や住民のコンセン
サスを得ることが難しく、事業期間が計画を大きく超え
ることが多い。それに対して、港湾埋め立て地の造成で
は、もともと公共水面であるので事業着手までが簡単で
あり、造成にあたっては比較的潤沢な港湾整備特別会計
の資金を利用できるという利点もある。そのため、大阪
市にとどまらず、東京港、横浜港、神戸港など、特定重
要港湾での住宅地を中心とする新都市の建設が推進され
ることになった。
  ポートタウンに居住する住民や港湾施設に働く従業員
の足として、大阪市交通局は、地下鉄四つ橋線住之江公
園とポートタウンの中ふ頭間6.6kmを結ぶ新交通システ
ムを建設し、昭和56年3月16日に開業させた。
  さらにコスモスクェアの開発にあたってはこの新交通
システムの地下鉄中央線大阪港までの延長を計画した。
昭和63年12月5日に鉄道事業法と軌道法により免許・特
許を取得して翌年から工事に着手する。中ふ頭〜コスモ
スクエア間が都市街路として軌道法による特許、コスモ
スクエア〜大阪港間が港湾整備事業として鉄道事業法に
よる免許となる。完成後は中ふ頭で大阪市のニュートラ
ムと相互乗り入れ、大阪港では大阪市営地下鉄中央線と
乗り換え連絡する計画であった。ちなみにニュートラム
のほうは、フェリーターミナル〜中ふ頭間が鉄道事業法
による免許となっていたので、軌道法、鉄道事業法の区
分けは、事業地域よりもむしろ道路整備特別会計と港湾
整備特別会計の財源の余裕によって分担しているのであ
ろう。港湾計画区域内であっても運輸省ではなく建設省
からインフラ補助を受けるケースも少なくない。
  中ふ頭〜大阪港間の新交通システムは、大阪港から大
阪南港トンネルをくぐり、対岸の海浜緑地・コスモスク
エア・中ふ頭と至る路線である。海浜緑地は地下駅構造
で高架駅のコスモスクエアの中間で地上にでる。そして
中ふ頭までは高架線が続くことになる。大阪南港トンネ
ルは、高規格臨港道路(運輸省港湾局管轄)として建設
されるもので、自動車道路の中央に新交通システムの軌
道を併設するという構造であった。
  この新交通システムは、トンネルや高架橋などのイン
フラを軌道法部分は道路管理者として、鉄道事業法部分
は港湾管理者として大阪市が建設し、運行に関する上部
構造物を第三セクター「大阪港トランスポトシステム」
が建設する。この第三セクターは、昭和49年に設立され
た大阪市などが出資する第三セクター「大阪南港複合ター
ミナル」を改称したもので、あわせて海浜緑地地区の造
成事業も行う。当初平成7年の開業を予定していた。
  その後、平成2年10月に北港地区の人工島造成の構想
がまとまり、またコスモスクエア地区の開発計画が具体
化するにしたがって新交通システムでは需要を賄えない
ことが判明、大阪港〜海浜緑地間の地下鉄への変更を画
策する。ここで問題となるのは、すでに新交通システム
のインフラ補助のフレームワークで補助金の交付を受け
て建設中の施設を別の補助金に移行できるものか。また
引き続き第三セクターが車両を所有して運営するか、あ
るいは第三種鉄道事業者として大阪市交通局に線路敷を
利用させるかということが検討されたようである。
  平成4年春大阪市と運輸省の協議の中で登場したのが
「高規格新交通システム」という考え方で、期間1435mm
の鉄輪走行の新交通システムとして、従来のインフラ補
助の枠組みで引き続き建設をつづけるというものだった。
その後どのようなやりとりがあったのかは定かではない
が、最終的に落ち着くのは、各地の港湾でみられる港湾
管理者が運営する公共臨港鉄道の枠組みであった。
  臨港鉄道は、埠頭の荷役のために設置される鉄道施設
のことで港湾管理者が建設する。臨港道路とともに臨港
交通施設として、港湾法では特定重要港湾と重要港湾に
たいして10分の5以内、地方港湾にたいして10分の4以
内で国は補助することができるとなっている。結局、地
下鉄を港湾労働者や旅客航路の利用者に対する臨港交通
施設として位置づけ、新交通システムと同じく、インフ
ラについて港湾整備特別会計から補助金が交付されると
いうことで決着する。この地下鉄方式への変更により工
事費が80億円上昇するが、南港トンネルについてはトン
ネル断面など基本的な変更はないという。ただ、海浜緑
地ではあらたにニュートラムと地下鉄の接続駅となるた
め、地下鉄がニュートラムの下に入り込む、地下2層構
造に変更された。
  平成4年12月1日大阪市は地下鉄への変更を発表。平
成5年度運輸省の港湾予算に計上されることになる。新
交通システムから地下鉄への大きな計画変更にもかかわ
らず、トンネル部分の計画変更は軽微なものであったよ
うで、穿った見方をすると、港湾地区での鉄道整備に対
する助成制度が確立していないため、とりあえず実績の
ある新交通システムで事業を開始していたということな
のかもしれない。
  南港トンネルの道路部分は平成9年夏に供用開始を予
定しており、地下鉄についても同年中には開業を目指し
ている。すでにトンネルは貫通しており、現在アプロー
チ部分の建設が急がれている。
  なお、このほかにも大阪港周辺での多くのプロジェク
トを進めている。たとえば、USJ(ユニバーサルスタ
ジオ・ジャパン)である。大阪港の北、此花区の鳥居5
丁目、桜島線安治川口、桜島間の北側隣接地に、テーマ
パークの誘致を図ったもの。大阪市が筆頭株主となり、
アメリカMCA社の共同出資によりユニバーサルスタジ
オ・ジャパンを設立して、アメリカのユニバーサルスタ
ジオ同様の娯楽施設を建設するというもの。平成6年に
準備を始め。7年度からは本格的に事業に着手した。20
01年春のオープンを目指すという。このアクセス交通と
してJR桜島線の改造が取りざたされている。
  また、大阪市は2008年のオリンピック誘致について名
乗りを上げたが、北港に造成中の舞洲をスポーツアイラ
ンドとし位置づけて、オリンピックの会場の多くを整備
する計画である。舞洲の交通アクセスとして平成元年の
交通政策審議会10号答申では、北港テクノポート線とし
て、海浜緑地から北港北までの路線が取り上げられてい
る。ただし、これが地下鉄になるのか新交通システムに
なるのかは決まっていない。
  しかし、むしろオリンピック会場として予定される舞
洲は桜島と目と鼻の先であり、現在構想される海浜緑地
からの路線では、大きく迂回するルートをとるため、J
Rの桜島線の延長についても、オリンピック誘致に成功
した段階で課題となるのかもしれない。

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