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        ニュータウン鉄道について考えること

『鉄道ピクトリアル』45巻9号、1995年9月掲載

 今年4月1日に千葉ニュータウンを走る住宅・都市整備公団線
が,印西牧ノ原まで1駅分東に路線を延長した.また同じ日に,
ちはら台ニュータウンでは千葉急行電鉄の大森台〜ちはら台間を
開業.いっぽう,西日本でも泉北ニュータウン内で,泉北高速鉄
道が光明池〜和泉中央間2.2kmの延伸を果たした.奇しくも同じ
日に,東西で3路線のニュータウン鉄道が路線を延ばしたことに
なる.
 住宅・都市整備公団線は,もともと千葉県営鉄道として計画さ
れたもので,県営鉄道計画のうち本八幡〜千葉ニュータウン中央
間挫折ののち,残る東側区間が住宅・都市整備公団に譲り渡され
ていた.当初千葉ニュータウンは千葉県企業庁が事業主体となっ
ていたが,造成工事なかば,建設省の仲介で住宅・都市整備公団
(当時宅地開発公団)に引き継がれている.
 現在,住宅・都市整備公団は第3種鉄道事業者で,第2種鉄道
事業者として北総開発鉄道が運営をおこなっている.従来より運
転業務は北総開発鉄道に委託されていたが,線路使用料によらず
に車両キロで清算する方式をとっていたため,全線を第3種路線
とする住宅・都市整備公団が32両の電車を保有するという,特異
な存在となってしまっている.
  千葉急行電鉄は,昭和30年台初頭,京葉工業地帯の開発が盛ん
な時期,あわせて工業地帯の後背地一帯での住宅地建設が進めら
れた.この地域を縦断する形で,小湊鉄道の路線を千葉まで延長
する計画であった.しか小湊鉄道の独力ではなかなか事業着手に
いたることができず,ながい間事業が中断していた.
 そのような時,一部計画区間を含むエリアを対象に千葉東南部
ニュータウンが計画されたことから,ニュータウン鉄道としてこ
の小湊新線が注目されることになった.鉄道プロジェクトはグルー
プ・リーダーの京成電鉄の手に移り,さらに千葉県,沿線自治体,
住宅・都市整備公団が出資する第3セクター的会社として千葉急
行電鉄が設立された.昭和52年4月1日現在千葉急行電鉄の払込
資本金は8億円で,京成電鉄の持分は4億円,その他当時子会社
の小湊鉄道と関連会社の新京成が出資しており,グループ持株率
は6割を越えるというものであった.そのため,大きな公的出資
を受けているものの建設補助を支給される第3セクターではない
ことになった.昭和52年度京成電鉄の持株25%を公共団体,公団
に譲渡,また増資分を自治体,公団が引き受けることにより次第
に公共比率を高め,昭和63年現在,公団を含む公共比率は33.4%
に高まった.そのいっぽうで,京成電鉄の出資比率は24.8%に低
下して現在にいたっている.
 現在京成電鉄は筆頭株主の地位にあるものの,50%以上の支配
株を持たず,それでいて50%以上の公共比率もなく,ニュータウ
ン新線にたいするインフラ補助の対象とならず,鉄道公団のP線
ニュータウン線として,5%を超える利子補給を受けるにとどまっ
た.そのほかに住宅・都市整備公団からの開発者負担が行われた
とはいうものの,インフラ補助とはその補助率に大きな差があり,
なぜ公共比率を高めてインフラ補助を受けるようにしなかったの
か,大きな疑問となっていた.
   *      *      *
 ところで,第3セクターによるニュータウン新線に対する補助
制度は,大阪府下の泉北高速鉄道が契機となったと思われる.大
阪府は,大阪府南部,堺市と和泉市にかけての1,520haを造成し
て一大ニュータウンとして開発しようという,泉北ニュータウン
を計画するが,泉北高速鉄道は,その泉北ニュータウン内の足と
して計画された.ニュータウンは大阪府企業局が事業主体となり,
昭和39年に事業化.鉄道は,当初地下鉄の延伸,国鉄阪和線,近
鉄南大阪線,南海電鉄高野線からの路線延長を検討したところ,
南海からの分岐が望ましいと結論されたが,南海電鉄では用地買
収と資金調達について困難として府の協力を求めた.これにたい
して府は,自ら主体となって鉄道建設に当たることを決して,す
でにトラックターミナルを運営している第三セクター「大阪府都
市開発」を活用することになる.
 泉北高速鉄道は,昭和44年3月31日に高野線中百舌鳥駅から光
明池まで12.34kmの免許を取得,46年4月1日に中百舌鳥〜泉ヶ
丘間,48年12月7日に泉ヶ丘〜栂・美木多間,52年8月20日に栂
・美木多〜光明池間を開業して当初計画分の工事を完了した.
 この泉北高速鉄道は,公営・準公営ニュータウン鉄道にたいす
る建設補助金の交付を受けたが,この制度は,昭和47年5月18日
大蔵,運輸,建設の3省覚書に基づき,対象工事費の90%にたい
して36%(当初は20%)を国と地方自治体が折半で補助するとい
うもので,大阪府都市開発は昭和48年から,つづいて千葉県は翌
49年から交付を受けることになる.それ以後,この制度の対象に
認定された事業は,ほかに神戸市西神線・西神延伸線,横浜市3
号線がある.
  そして,千葉県,神戸市,横浜市はいずれも純然たる公営で問
題ないが,大阪府都市開発の場合は,大阪府の出資率が49%で,
残りはすべて民間出資となる第三セクターである.そこで,準公
営という定義が問題になるが,実は大阪府都市開発は,昭和55年
時点で資本金40億円であったが,このうち鉄道部門充当分は10億
円で,この全額を大阪府が出資していたのである.また,千葉県
営鉄道は,のちに住宅・都市整備公団に引き継がれるがこの鉄道
軌道勘定は全額千葉県の出資ということになっている.つまり,
準公営とは,全額自治体出資で運営されている鉄道事業というこ
とを意味しているようである.
 つまり,のちには公的助成の資格として線引きの基準とされる
第3セクターの公共出資率50%以上というのは,このニュータウ
ン鉄道の場合には該等しないということになる.そして,先の千
葉急行電鉄についての,疑問も氷解することになった.しかし,
この準公営という基準は,最初から100%自治体出資を想定して
いたものか,不明な点も多い.すでに遅きに失した感はあるが,
都市モノレールや地下鉄建設補助金が公共出資50%基準を用いて
いる以上,ニュータウン鉄道についても改善の必要があるように
思える.
   *      *      *
 ところで,今回開業した千葉ニュータウン中央〜印西牧ノ原間
を第2種鉄道事業者として運営する北総開発鉄道は,現在深刻な
経営危機にさらされているということがいえる.平成4年度の次
期繰越損失が257億円に達する状況で,これにたいして平成7年
度から千葉県企業庁,住宅・都市整備公団,京成電鉄が協調して
総額275億円の支援を決定した.平成7年度から5カ年で88億円
の増資,京成電鉄が約57億円,千葉県と住宅・都市整備公団が15
億5000万円ずつを負担する.また,あわせて3者は5カ年間に
187億円の融資を行うが,これは10年据え置いたのち20年の均等
償還となる.
 なお,北総開発鉄道は,開業以来1度も利益を計上したことは
なく,累積欠損は,昭和62年度には372億円にまで達した.これ
を昭和63年度の特別利益93億円,平成2年度97億円の不動産利益
で圧縮する努力を続けてきている.ただし,昭和63年度の特別利
益の内容は不明で,国,自治体からの補助金受け入れはないし,
固定資産の売却益の可能性も小さい.いまのところ考えられるの
は,住宅・都市整備公団からの負担金の受け入れではないかと勘
ぐっているところである.
  今後,この支援策でも経営が好転する見込みはなく,ただ,千
葉ニュータウンの入居率の上昇,新鎌ケ谷〜北国分間の各駅周辺
で行われている自治体,公団による土地区画整理事業の進捗,さ
らに超長期の問題として成田高速鉄道の完成による成田空港乗入
れなど,受け身の対処しかできない辛さがある.先の県など3者
は,今後も再建の状況について協調して監視することになる.
 ところで,現在なお,なぜ京成電鉄がこのようなメリットの少
ないニュータウン鉄道にのめり込むことになったのかという疑問
が解決できない.うわさでは,当時京成グループが千葉急行電鉄
の事業を始める代償として,県・自治体が北総開発鉄道に資本参
加することになったということを聞いた.その後千葉ニュータウ
ン計画が縮小されて2本の鉄道は必要なくなり,県は,千葉県営
鉄道を中止して北総開発鉄道1本に絞ることになるのである.い
ずれ機会があればこの点についても調査して報告したいと考える.

  北総開発鉄道財務データ

  年度   資本金    固定資産    次期繰越損益
  昭53   2,400,000千円18,937,821千円   -239,422千円
    54   2,400,000    18,323,292     -3,828,087
    55   2,400,000    17,398,923    -10,032,931
    56   2,400,000    16,785,484    -15,363,555
    57   2,900,000    16,374,263    -19,725,835
    58   4,000,000    16,270,393    -24,847,290
    59   5,700,000    18,019,995    -28,640,835
    60   7,000,000    20,835,403    -31,903,499
    61   7,600,000    23,176,858    -34,603,471
    62   8.900,000    25,803,634    -37,190,459
    63   9,600,000    32,029,712    -30,116,753(1
  平1   9,600,000    35,726,526    -30,322,032
    2   9,600,000   126,831,365    -18,886,293(2
    3  11,225,000   129,584,699    -22,165,501
    4  12,850,000   127,171,125    -25,704,968
    5  16,100,000          −             −
    6  16,100,000          −             −

  1) 特別利益 9,311,620千円
  2) 不動産利益 9,695,131千円

モノレールと新交通システム グランプリ出版 2310円込

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