ドイツにおけるデュアルモードLRTの動向 『鉄道ピクトリアル』48巻9号、1998年掲載 ドイツでは1990年ころに人口1人当たり自動車保有 台数が0.5台で飽和することになるが,それ以前1970 年からの20年間で自動車保有が倍増する急速な普及が みられ,都市部で交通混雑を発生させた。それに加え て,近年では,東西ドイツの統一により東西間を結ぶ トラックが増加して問題を深刻なものにしているとい う。 これに対して,近距離公共交通の事業者団体である VDV(ドイツ交通事業者協会)は,2年毎にサービ スに対する意見と必要とする公共交通のリストについ てのアンケート調査を実施した。その結果は,多くの 人たちは,貧弱な接続と乗り換えの不便から,公共交 通に不満を持っていることが分かった。そこで,VD Vは,乗り換えの不便の無い,都心と郊外とを直接結 ぶExpressバスの運行を始めた。しかしバスでは輸送 量が限られ,また道路混雑に巻き込まれやすかった。 そして,考え出されたのが,シームレスな鉄道システ ムであった。 まず,1992年9月ドイツ西南部のライン川の上流に 位置するカールスルーエで,ドイツ国鉄(DB)と市 内電車の直通運転が始まった。その前の年6月には, 市内用直流750VとDB路線用交流15,000Vの両用に改 良したシュタットバーン車両B80型を使って,DB路 線上での試験的営業運転を開始した。 このデュアルモードLRTの導入でDBのKahrsruhe −Bretten間の平日旅客数は2,000人台から一気に7,000 人台に増加,93年半ばには12,000人余りに達した。そ の後も毎年着実に直通路線を増やしている。 デュアルモードLRTの2番目となったのは,カー ルスルーエの西方に隣接するザールブリュッケンであ る。カールスルーエと違って,すでに32年前に市内路 線を廃止してしまっているため,都心部の路面上に市 内路線が新しく建設された。市外のBrebachに設けら れた短絡線を使って,DB路線の既設路線に乗入れる ことなった。 1997年10月このザールバーンは開業し,ドイツのサー ルブルッケンからフランス国境を越えてSarrguemines までの直通運転を開始した。国境からSarrgueminesま での1kmは,フランス国鉄(SNCF)の路線を走る。 現在,フランスの都市交通協議会(Gart)では,10万 〜15万人規模の地方都市で,都心から20〜30km圏の交 通手段としてデュアルモードLRTの導入に強い関心 を持っているという。たとえば,ドーバー海峡に面す るダンケルクでは,Bray−Dunes間のSNCFの貨物 路線を使って,海岸リゾート地までの20kmのLRTを 整備するという。またカールスルーエからさらにライ ン川を上流に溯った,ドイツ,スイスとの3国の国境 が重なり合ったミュールーズでは,都心部での整備が 計画されているLRT路線をSNCF路線と結び,直 通運転を行う計画を持つ。フランス西部の大西洋岸ナ ントでも,SNCFの使っていない路線や貨物路線を 使用して,LRT路線を20km拡張する。 ところで,ドイツの鉄道施設に関する施設運行規定 は,路面電車,LRT,地下鉄(U-Bahn)に対する BOStrab,狭軌鉄道に対するESBO,その他鉄道に対す るEBOの3種に別れているため,デュアルモードLRT は,すくなくともBOStrbとEBOの2つの規定を満たす ことが必要となる。 また,電化方式も,市内電車が直流750Vであるのに 対してDBは交流15,000V,隣接国は交流25,000V,直 流1,500Vと異なる。さらに将来は,非電化路線への直 通も想定され,その場合はディーゼルエンジンを搭載 したLRVが開発されることになるという。 今後の展望として,現在ケルンの西方,オランダ, ベルギーとの国境近くの地方都市,アーヘンではLR Tの整備計画が進行中であるが,さらにDB路線を経 由してオランダ国鉄(NS)に乗入れる計画がある。市内 路線とNS路線の直流1,500VとDB路線の交流15,000V を直通運転できる車両が必要となる。なお,アーヘン もかつて路面電車を全廃した都市である。 また,旧東ドイツの南部の中都市,ライプチヒの南, ドレスデンの西近くのツビッカウでは,1996年10月か ら近郊列車RegioSprinterの運行を行っているが,99年 5月までには貨物鉄道を経由して市内電車と直通運転 を始めるという。そのため,市内電車の線路を1,000mm と1,435mmのデュアルケージに改築する。 デュアルモードLRTは,日本では広島電鉄が1つ の例となるであろう。軌道法による市内線と鉄道事業 法による宮島線を直通運転している。しかし,ドイツ でも市内線と郊外路線の直通運転は,ケルン=ボンや カールスルーエのアルプタールバーン,マンハイムの RHB,OEGなど多くの事例がある。本稿で紹介し たデュアルモードLRTは,むしろ国鉄路線と直通運 転するところに目新しさがあるのである。
Adolf Muller-Hellmann(VDV),'Dual-Mode LRT Creates Seamless Journeys',Internatioan Railway Journal,1998.3.
'Dual-Mode LRV Enters France',International Railway Journal,1998.3.